「『四庫全書総目提要』子部小説家類講読」
担当教員  黒田真美子 学期:冬 月・3 赤門総合研究棟723
 六朝・唐代小説の原本は、現在すべて失われている。それ故、研究の基礎作業として最初に確認すべきは、成書伝播の整理であろう。その作業対象の淵源となるのは、周知の如く、前漢の劉向・劉歆『別録』『七略』である。爾来、中国における目録学は延々と継承され、清代に至って『四庫全書総目提要』(以下『提要』と略す)が出現した。時は乾隆47年(1782)、経史子集の四部分類に従って編まれた200巻である。その中、子部14類に属する小説家類は、さらに「雑事」「異聞」「瑣語」に三分類される。当該授業では、この中から主な六朝・唐代小説の提要を選んで、講読する。また『提要』には、著録に値しない次善の書として「存目」が設定されている。両者の相違を勘案しつつ、「存目」中の提要も併せて対象とする。上記の講読によって、中国文学における<小説>概念の変容と多様性への理解を深めたい。
 具体的には、以下の2点の問題意識を持って、考察する。
1、『提要』は47年の初稿後も、改正・補充が加えられ、54年(1789)に決定稿ができあがって武英殿から刊行されたが、60年(1795)には、その翻刻の浙江本が刊行された。かように何度も手が加わったが、それでも猶、誤謬が指摘されている。各書の提要内容を追跡調査し、問題点を剔抉して、できるだけその正誤を解明する。
2、『提要』の体裁は、その凡例第9条(「人品学術の醇疵、国紀朝章の法戒も亦た未だ嘗て各々彰癉を昭らかにせずんばあらず、用て勧懲を著す」)に明らかなように、単なる書籍解題に止まっていず、執筆者の価値観が認められる。即ち『提要』の分纂稿を筆削し、最終的に定稿とした総纂官紀昀(1724-1805)の小説観を看取しうる。『閲微草堂筆記』の作者でもある紀昀は、『聊斎志異』の作者蒲松齢(1640-1715)を「才子の筆」ではあるが、「著書者の筆」ではないと述べたという。では「著書者の筆」とは何かを問題意識として持ちながら、講読する。
 以上、二つの観点から『提要』を分析考察することで、六朝・唐代の<小説>が、清代に至るまで、時代の思潮とともにいかに変容していったか、その一端を明らかにしたい。

教科書
合印四庫全書總目提要及四庫未収書目禁燬書目 / 永瑢等撰 ; 王雲五主持

参考書
 従来、『提要』を補い、誤謬を正す研究として、胡玉縉撰・王欣夫輯『四庫全書総目提要補正』、さらに精確を期した余嘉錫著『四庫全書総目提要辨証』などがあった。近年それらに『《四庫全書》研究資料叢刊』が編纂され、『《四庫全書》提要稿輯存』(北京図書館出版社)などが刊行されている。併せて参考にする。




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