学士入学体験記                                                 筒井克

 

私は、ビジネスの世界に一応の区切りをつけ、学士入学制度を利用して平成21年に本学の文学部中国語中国文学専修課程に入学した。何故、中国文学課程(中文)を選んだかというと、高校時代に面白くて二日ほど殆ど寝ずに読み通した『聊斎志異』(角川文庫。柴田天馬氏訳)のあの感動を原書でもう一度味わってみたかったからである。又、一つには、ビジネスを通じて知り合った多くの”華人”のシビアな金銭感覚と古典中国文学に私が感じるなんともロマンチックな香りとの間のギャップに何か折り合いをつけたいという気持ちがあったからである。

 

ということで、自宅から1時間以内で通えることを条件に中国文学課程を設ける大学を3校ほどに絞りこんだ。学費の安さ、入学試験が一番早期に実施されること、知人の勧めなどから、ひとまず本学の中文に的を絞った。過去問をとりよせ苦手の英語と小論文を中心に、大学入試用の英文解釈の参考書、英字紙のタイム等を読んで一次試験に備えた。一次試験の外国語(私の場合は英語と中国語を選択)試験は、当たり前のことだが、外国語文のいわんとするところの意味のより正確な理解とその正確な邦訳力を試されているように思える。現代中国語は仕事である程度は日常的に使っていたので特に学習時間はとらず、英語を中心として学習に持ち時間の殆どを注いだ。十分な英語や中国語の読解力を持ち合わせていたわけではなかったが、本番の試験では知らない単語にたまたま巡り合わなかったため、何とか掲示板に自分の受験番号を見つけ出すことができた。二次試験は、口頭試験。緊張感からか前日はよく寝れなかったが、先生方の思いのほかソフトな語り口のおかげであまり緊張せずに、無事に質疑応答に臨むことが出来た。内容は入学後に学びたい分野を中心に行われた。結果は、何とか入学にこぎつけていた。学士入学者は、在学期間2年間(最長4年)で84単位以上(卒業論文を含む)を取得すれば、卒業できるのだが、私の場合、3年をかけて、学部を卒業した。卒論を除く必要単位は2年間で取得していたのだが、希望していた大学院進学のための実力が不足していて、卒論、院試受験の準備にもう一年必要だったからだ。1年をかけても、自信を持てるには程遠いレベルだったが、何とか院への進学を果せた。

 

学士入学者は文学部の3年生に編入されるのだが、私の場合、他の大学を卒業したのは遥か以前であり、元来のセンスの悪さに加え、長年ビジネスに携わってきた後の大学学部への再入学だったせいか、授業の準備にも戸惑った。今、振り返ってみると、文学とは全く無縁の社会人経験者の私には、学部で所定より1年かけても、まだ足りないくらいだ。中国文学の発祥は紀元前に遡り、それは現代も脈々と続いている。その分、文学史上の人物、事象も多岐に渡る。自分の無知を感じる毎日である。しかし、中国文学の世界には無数の魅力的なスターが登場する。詩人、美女、剣士、妖術師、仙人、幽鬼、花の精、稀代の好色家等等、一口には語りきれない。彼らとの書物を通じての交流は、私にとって古典中国文学を学ぶ楽しみである。私のような中文への学士入学者が増える事を、個人的に願ってやまない。