学士入学経験者手記・・・のようなもの 平成14年度学士入学 鈴木弥生

 「これから世界に通用する言語は中国語だ」という確信から中国語の世界に飛びこんで2年後、もっと深く中国を知りたいと思って中国文学を選んだ。なぜ文学だったのかという理由は、中国ものの小説が好きだから。そのほとんどは中国人ではなく現代日本人が書いたものだが、それらはみんな中国古典文学の素養を元に書かれていた。『西遊記』のような神仙もの、『三国演義』のような架空のエピソードをまじえた歴史もの、『水滸伝』のような武侠もの、等々。つまりそうした小説の奥にある「元ネタ」を知りたかったのだ。ちなみにこの場合の「中国古典文学」とは、専門的に言えば「白話小説(白話=口語)」というジャンルに属するということを知ったのは、後になってからである。

 というわけで、平成14年、私は東大の学士入学試験を受けることにした。なぜ学士なのかといえば、専門知識を問われる大学院入試には太刀打ちできないからで、なぜ東大なのかといえば、中国文学関係で学士募集をしているところが他にあまりなかったからである。というと身も蓋もないのだけど、その判断は間違っていなかったことは後で証明された。

 さて手続きだが、募集要項は教務掛でもらえる。過去問題もコピーさせてもらえる。過去問題のコピーの時は、問題冊子の代わりに何か身分証明書を預けることになるので、学生証や免許証のような身分証のない人は、あらかじめ何か用意する必要があるので要注意。また私は教務掛の場所がわからずに、構内に入ってから迷うことになった。訪ねる人は、事前にきちんと聞いておいた方がいいかもしれない。
 一次試験は外国語の筆記試験。中文希望者は、中国語及び1ヶ国語の2科目を受験する。教室を探してまた迷った。これは下調べのしようがないので仕方ないのだが。懲りた私は、めでたく一次試験合格を決めたその足で、二次試験(面接)が行われる研究室の場所を確認した。研究室は、当時は正門右手の法文2号館にあったが、現在は赤門からすぐの赤門総合研究棟に移転している。一次試験が行われる法文1号館や教務掛のある辺りとは、徒歩で数分離れているので、今はこれも要注意かもしれない。
 二次試験は、先生方による面接である。この年はバレンタインデー前日だった。その日は修士の二次試験もあったため、研究室には内部進学希望の4年生を中心に、何人かの在校生の皆様がいらっしゃった。面接を控え、緊張で固まっている哀れな学士希望者に(この年は受験者も合格者も1人だった)、皆様は「一次に受かれば、二次で落ちることはまずないから大丈夫!」と、よってたかって励ましてくださった。その暖かい激励は、一緒に出してくださったハート型のどら焼きと共に、忘れられない思い出となっている。

 その励ましのお陰か、私は二次試験も通り、学士入学を許された。そして自覚したのは、自分には何て知識が足りないんだろう、ということだった。中文研究者として知っていて当然らしい基礎知識も全然知らない。これはまずい。だがそんな私に、先輩方・先生方は実に根気よく、そして丁寧にいろいろ指導してくださった。こちらから尋ねなくてもどんどん教えてくださる。また自主ゼミというものもあって驚いた。中文研究室には、研究し吸収し、さらにアウトプットしようという意欲とエネルギーが満ち溢れているのである。

 しかしまた、中文研究室はお堅いばかりのところではない。『水滸伝』の原文の解釈について討論していたはずが、いつの間にかジャ○プの漫画の話になっていた・・・などというのはよくあることである。そしていつも笑いが絶えない。私も、そんな緊張と弛緩がほどよく混ざり合った雰囲気の中にあって、知識以上に、そうした「楽しく、そしてしっかり学ぶ意欲を持つこと」の大切さを身につけることができたと思う。

補足:2006年度より、学士入学の申請・試験期間が変更になりました。詳しくは文 学部HPでご確認ください→
(このエッセイは学士入試の制度変更に伴い、2006年4月に一部加筆修正されました)