東大受験記
池田 晋
(大阪外国語大学⇒2004年博士課程入学)

☆東大受験を決めたワケ
 そもそものきっかけは、大阪外大の学部4年生だった頃。大学院に進みたい旨を当時の指導教官の先生に告げると、「なにも大阪外大にこだわる必要はない、ヨソに行ってもええんや」という一言が返ってきた。そのときは「なるほどそういう選択肢もあるのか」と思った程度で、本当にヨソへ行くことになるなど想像もしていなかったが、後から考えてみれば、この言葉が私の気持ちを揺り動かした一番の要因だったのかもしれない。
 はじめのうちは、せっかく先生からいただいたアドバイスを、無駄に聞き流してしまうのも申し訳ない。それならば、他大学受験は、とりあえず修士を大阪で過ごした後で、改めて考えてみることにしてみよう。そういう風に考えていただけだった。
 結局、その段階では他大学を受験せずに、大阪外大の修士課程に進むことを決めた。だが、その指導教官の言葉は、時間とともに、私の中で徐々に大きくなりはじめていた。「ヨソに行ってもええ」という言葉は、言い換えれば「大阪外大とは違う環境の中でがんばってみなさい」という意味でも解釈できるのではないか。先生が積極的に他大学受験を勧めてくださるのなら、それは私にとってもさらにステップアップできるチャンスなのではないか…。そんなことを考えるうちに、私は徐々に他大学への博士入学を意識し始めるようになった。そして、その漠然とした思いが、確固とした決意に変わるのにそう時間はかからなかった。
 東大を選んだのは、ほかでもなくその指導教官の先生ご自身、そして現在の指導教授である木村先生も、大阪外大卒業後に東大へ進学したという経歴の持ち主だからである。自分も他大学を受験するからには、やはり偉大な先人たちの足跡をたどりたいという思いがあったのである。

 ちなみに、大学院受験は、日程さえ重ならなければ、複数の大学を併願することが可能である。私は、東大だけではなく、大阪外大の博士課程も受験した。もちろん自分が7年もの間お世話になってきた母校なので、第2志望にしてしまうことに対しては心苦しい気持ちはあったが、そこは割り切って考えることにした。万一浪人したときの経済的負担などを考えると、やはり併願という選択もやむをえないことである。

☆試験
 博士進学にも当然試験があるので、試験勉強をやらなくてはならない。「何を当たり前のことを…」と思われるかもしれないが、修士論文を書く一方で、試験勉強もしなくてはならないというのは大変なことである。バランスよくできればそれが一番いいのだが、実際はそううまくはいかないものである。
 私の場合は、修士論文の構想がなかなかまとまらなかった。しかし、修士論文が書きあがらなければ、願書が提出できず、試験を受けることすら不可能になってしまう。そういうわけで、私の場合は、試験対策を後回しにして、何よりもまず修士論文を書きあげることに全力を注がざるを得なかった。幸い、論文の構想がまとまって実際に書き始めてからは早かった。というか、単に早く書かなければ間に合わなかっただけなのだが、とにかく、なんとか12月上旬の〆切に間に合って願書を提出することができた。なにぶん数年前のことなのでよく覚えていないが、12月の第2週あたりが出願期間になっていたはずである。この出願期間に間に合うように、計画的に論文を書いていくよう心がけた。なお、願書は出願期間最終日午後3時必着になっているので、その点にはくれぐれも注意が必要である。  論文を書き終えても休む暇はない。次は試験対策にとりかからなくてはならない。私が受験したとき(2004年)は、確か、1月24日が1次試験だったので、ほぼ1ヶ月半の時間を、試験対策にあてることができた。
 試験対策には、過去問を利用した。私の場合は、たまたま東京に友人がおり、その人に頼んで過去問を手に入れてもらった。やはり東京に友人がいてくれると何かと心強いので、地方からの受験を考えている方は友達付き合いを大切にしておいたほうがよい。ついでにいうと、過去問は平日の夕方までに文学部事務所までいかないと手に入らないらしいので、自由な時間の多い学生の友人を一人作っておくことが望ましい。
 過去問以外では、東大の院生で、もともと面識のある方が何人かいたので、その人たちからいろいろと情報を提供していただいた。やはり東大生の生の意見というのは非常に参考になるので、学会などの場で、東大の院生を見かけることがあれば、勇気を出して話しかけてみてもよいかもしれない。どうせいずれ"同学"になるのだから遠慮をする必要はない(と思う)。
 とにかく、過去問や東大院生の話などの情報を総合して、だいたいの出題傾向を割り出し、試験の一ヶ月前くらいから集中的に勉強をした。1次試験は外国語と専門分野の2科目に分かれる。外国語は、日本人の場合は中国語と英語、中国人の場合は日本語と英語、というように、2種類選択することになっている。中国語と英語は読解力を問う問題が出題されるので、日頃から中国語や英語の文章を読む習慣をつけておくようにしたい。専門分野の試験は、文学3問(現代・古典・白話読解)、語学2問(現代文法・古典文法)が用意されており、そこから3問を選択する。近年の傾向としては、だいたい自分の専門分野について2問、白話小説の読解1問を選択できるような構成になっているので、たとえば語学専攻の人が文学を一から勉強したりする必要はない。専門分野の試験は、時間との勝負なので、手際よく解答することを心がけなくてはならない。なお、今年から急に出題方針が変わってしまうという可能性もないとは言えないので、そうした可能性も考慮に入れた上で試験対策をおこなうようにしてください。

☆合格後の手続き
 合格発表は、1次試験の後と2次試験の後の2回おこなわれる。自分で発表を見に行くことが原則らしいが、交通費もバカにならないので、友人に頼むなどの手を考えた方がよい。友人に頼むのはちょっと嫌だという人は、研究室の助手さんになんとか便宜を図ってもらえないか相談してみてもよい。私の場合は、1次試験の結果だけ電話で教えていただいた。2次試験の結果は、一応自分の眼で確かめに行ったが、やはり自分で見に行った方が、圧倒的に喜びが大きい。往復夜行バス0泊3日という強行スケジュールで肉体的にはかなり厳しかったが(不合格だったら死んでいたかもしれない)、行った甲斐はあった。
 合格後の手続きについては、大学の指示に従っていればよいので、とくに強調することはない。3月下旬くらいにあるはずなので忘れずにすませてください。

☆受験とは関係ないけど…
 地方を離れて、東京で生活することになる人にとっては、手続きよりももっと重要なことがある。家探しだ。東京の賃貸事情について何も知らないと、不動産屋の口車に乗せられて高い部屋に住まされてしまうので、ある程度の情報は調べておいた方がよい。
 東京の家賃、特に山手線の内側は、異常に高いので、生活に余裕のある方を除いては、間違っても学校の近くに住もうなどとは考えてはいけない。山手線の外側で多少交通費のかかる場所であっても、総合的に見れば近くに住むより安くつく。
 家賃以外では、東京の物件は全体的に狭く、また日当たりの悪い部屋が多い。とにかく、簡単に妥協せずに、じっくり時間をかけて決めた方がよい。
 家探しについて詳しいことは、合格を決めた後で、過去問入手のために作っておいた友人からいろいろ聞いてみるとよいでしょう。

 いろいろと好き勝手なことを書かせてもらいましたが、この体験記が少しでも皆さんの参考になれば幸いです。
 他大学から東大を受験される皆さんの合格をお祈りいたします。





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