東大台大合同合宿in検見川 博士課程 松崎 寛子
7月2日から7日までの5日間、東大検見川寮にて東大中文研究室と台湾大学台湾文学研究所との合同合宿が行われました。
台湾大学から参加されたのは、先生方4名、学生さん17名、計21名です。1年前の夏、私たち東大側が台湾大学を訪問し、熱烈な歓迎を受けたことは、忘れられない思い出です。ですから今回はおもてなしをする立場として、合宿前から、東大の受入スタッフ一同とても気合が入っていました。
7月2日の夜に台湾大学の皆さんが到着、3日と4日の2日間は、東大と台大の合同勉強会です。東大、台大の学生各7名ずつが論文の発表をし、東大の論文には、台大の学生が、台大の論文には東大の学生が、それぞれコメントをしました。中国語で討論をする、ということで、日本人学生にとっては、討論参加がなかなか大変なところもあり、台湾の方に対して、発表の際、中国語をもう少しゆっくり話して頂けないか、という要望も出ていました。
勉強会の様子1
勉強会の様子2
東大検見川寮は、千葉県の郊外にありますが、この立地条件が、なかなか台湾の方々には好評でした。閑静な住宅地ということで、一般の観光旅行ではなかなか触れることのできない日本的日常生活の一面を覗くことができたようです。また、畳の部屋での雑魚寝、大浴場での入浴等、日本の学生にとっては特に珍しいことでもありません
が、台湾の学生にとっては初めてでドキドキする体験がたくさんあったみたいです。このことは、お互いに新鮮な経験となりました。また、レクリエーションの時間には、カルタ大会が開催されました。事前に百人一首と犬棒カルタの説明をしておいたのが効果的だったようです。台大の学生さんは、皆、日本語を履修したことがあり、五十音は熟知していることもあって、先生、学生を問わず、大いに盛り上がりました。
また、夜の自由時間には、近くのスーパーに買出しに出かけるのも、台湾の先生方、学生さん方にとって、楽しい体験だったようです。
カルタ大会の様子
また、勉強会の合間には、広い検見川寮の敷地を散歩しました。特に印象的だったのが、今世紀に発見された縄文時代の種子から、開花に成功したという、蓮の花を見たことです。この蓮の花を使って、東大と某化粧品会社で共同開発された香水が、東大赤門前のコミュニケーションセンターで発売されています。7月5日の東大見学の際には、台湾大学の学生さんの多くがその香水を購入されていました。
検見川・蓮の花の前で
7月5日は、東大見学、その後に台湾大学台湾文学研究所の所長柯慶明先生及び日本大学山口守先生の講演会が行われました。台湾大学の学生さんにとって、今までドラマや小説などで、名前だけ知っていた東大を、実際に自分の目で見るのはとても感慨深かったようで、皆さんいろいろなスポットで、写真を撮られていたのが、とても微笑ましかったです。講演会には、合宿参加者の他にも、中文研究室の学生や、他学部、他大学の方も聞きに来られていました。その後行われた懇親会では、台大側と東大側の先生及び学生が、それぞれお礼の言葉や歓迎の言葉を述べ合い、とても和やかな交流の場となりました。
7月6日は、都内カルチュアル・ウォーク、村上春樹コース(注参照)と本郷・神保町コースに分かれ、台大の学生と東大の学生が、一緒に都内散策。私は、本郷・神保町コースに参加しました。本郷三丁目から、湯島天神、上野公園、精養軒でのランチ、国立博物館と回り、神保町を散歩。神保町では、古書店見学の他、映画『珈琲時光』に登場した喫茶店「エリカ」を外から見学したり、歴史のある喫茶店「さぼおる」で珈琲を飲んだりしました。喫茶店で台大と東大の学生が区別なく心ゆくまで語り合った体験は、両校の心の交流を促進するのにとても役に立ったと思います。その後は、後楽園に行って、ラーメンを食べ、一日の散策を終えました。
今回の合宿では、藤井先生のゼミ生だけで行う通常のゼミ合宿
とは異なり、大人数、そして国際交流という要素もあり、東大の受入スタッフ一同も大きな不安と期待を抱いていました。しかし、無事に合宿が終わったこと、そして何よりも、台湾から参加された皆さんが、日本滞在を楽しんで、日本への興味を更に大きくしたことが、何よりの収穫だったのではないかと思います。これを機に、東大・台大の交流が更に広がることをお祈りします。
(注)7月6日の村上春樹コースは以下のようなものでした。
村上春樹コースでは、『ノルウェイの森』を中心に村上ゆかりの各地を訪れました。村上春樹の学んだ早稲田大学の演劇部、教室、学生時代に住んでいた和敬塾の427号室、緑と食事した高島屋日本橋店の屋上レストラン、青山の村上事務所、村上行きつけの大坊珈琲店、新宿のジャズバーDUGなどを歩き回りました。
幸運にも427号室が空室であったため、寮長さんのご好意で特別に中に入らせていただくことができました。寮長さんのお話では、今年の10月に西寮が取り壊されるとのことで、今回の見学は非常に貴重な経験でしたが、これは村上春樹とのご縁ともいえるでしょう。そのほか和敬塾の銅像前で『ノルウェイの森』を朗読し、大坊珈琲店の店長に村上自筆サインを見せていただき、またDUGでは緑が注文したTom Collinsを飲んできました。
こうして村上の世界をひととおり訪れ、今その時のことを思い出すと、その文学の世界が自分の記憶の中から甦り、また肉薄してくる気がします。文学を読むことで、他人の人生の模擬体験が可能になるといわれますが、今回の訪問によって村上文学の世界は、身近に入り込めるもう一つの可能な人生をみせてくれたと、闇の中で微かに輝く蛍の光のように、心に刻まれました。
*(注)の村上春樹コース紹介は謝恵貞(2005年度修士入学)が担当しました