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形態資料学 教授
渡辺裕 WATANABE, Hiroshi

研究テーマ

これまで、西洋のいわゆるクラシック音楽から出発して、一見つながりのない多様なテーマを研究対象にしてきた。作曲家グスタフ・マーラーと彼を取り巻いていた19世紀末ウィーンの文化、音楽作品の解釈や受容のメカニズムの分析哲学的研究、コンサートに関わる制度史やレコードなどのテクノロジーの問題を中心とした「近代化」や「脱近代」の問題、さらには演奏様式の歴史的変遷といった問題を取り上げてきた。それに加えてここ数年、明治以降の日本の音楽文化の「近代化」が主要な関心事となり、今では、西洋音楽という領域を完全に外れ、戦前の宝塚少女歌劇、芸者の座敷芸の「近代化」や民謡における「正調」の確立、さらには戦後の「うたごえ喫茶」の文化というようなものまで射程に入ってきている状況である。

音楽研究仲間の間では、軽薄で移り気な人間だと思われているに違いないのだが、これらのテーマを振り返ってみると、自分の中にはやはり一貫した問題意識があったことをあらためて感じさせられる。音楽研究者の多くが「音楽それ自体」への関心から出発するのに対し、われわれにそれを「音楽自体」であるかのように感じさせることを可能にしている「文化」のシステム、その中でわれわれの感性のあり方や価値観自体が形成され、変容してゆくメカニズムやプロセスをずっと問い続けてきたような気がする。

文化資源学という専攻にかかわり、文化の保存と伝承といったテーマを中心とした新しい問題圏がまた目の前に開けてきていることを感じるが、これまで自分の培ってきた問題意識や知識をこの新しい学問の世界に接合し、再編成することによって自分なりの寄与をすることができればと願っている。

著書


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