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助手
高野光平 KONO, Kohei

研究テーマ

私の研究テーマをひとことで言えば、「戦後日本文化の資料論」ということになります。もともとレトロなものが大好きで、グッズ、映像、雑誌、歌謡曲など1960〜70年代のものをいろいろと集めたり読んだりしましたし、串間努、泉麻人、唐沢俊一などレトロ文化の研究者たちの本もたくさん読みました。

しかしいつからか、彼らの記憶を通じて戦後日本文化に触れることへの、微妙な違和感が生まれてきました。「レトロ」や「なつかし」は、基本的に彼ら40〜50代の実体験に基づいて書き直された昭和文化です。30代前半の僕自身は、それほど実体験しているわけではない。それなのに僕は、そうしたものに「ノスタルジー」を感じてしまうことに気づいたわけです。ここでにわかに、ノスタルジーがテクストによって「構築」されていること、それを下の世代が何らかの経路を通じて「学習」すること、そしてそれらが最終的に「集合的な記憶」になっていることが気になり始めました。

そういう枠組みで先般公開された映画『Always 三丁目の夕日』を見ると、ノスタルジーが様々なアイコンによって構築される様子がよく分かりました。また、昨年DVD化された公式記録映画『日本万国博』を見ると、これまで圧倒的に語られてきた企業パビリオン(フジパンロボット館など)中心の万博イメージとはまったく異なる万博の姿が映っていて、おおきな衝撃を受けました。レトロ文脈で覚えた戦後日本文化とは違った、何か別の「歴史」がそこにあるような、そんな手触りを得たのです。

30代以下の世代が思想・研究・表現などの表舞台にどんどん出てくるようになって、戦後日本文化を歴史学的にとらえる実践がこれから増えてきます。実体験が少ないので、「歴史」としてとらえるしかないからです。果たしてそのとき、戦後日本文化をじゅうぶん認識するための環境は整っているか。実体験記述は、歴史研究の必須な要素である「方法」と「資料」を不在にしなかったか。そういう問題意識が、現在の私の研究の基底にあります。方法については、若手社会学者らがいくつかの研究成果を発表しつつあるので、私は資料論のほうを考えてみたいと思っています。

具体的には、1950〜60年代のテレビコマーシャルを現在は扱っています。京都精華大学にて、現存するコマーシャル・フィルム群のデジタル・アーカイブ制作作業をおこなっていて、そうした「一次資料」に基づいて戦後日本の欲望の表象をたどり、その送受の仕組みを解き明かしたいと思っています。これが博士論文のテーマです。

もう少し大きな枠組みでは、マンガ、映画、写真、歌謡曲、児童文化などの研究者たちと連携しながら、共通問題としての「戦後日本文化の資料論」を立ち上げることが目標です。一方ではアーカイブズを構築すること、もう一方ではその解読の方法を確立することが課題です。ただし、大量生産・大量消費の戦後文化は驚くべきスピードでさまざまなモノを入手困難にしてきました。また、企業文化が重要な役割を果たすため、さまざまな権利問題が壁として立ちはだかります。そうした問題をひとつづつ解決しながら、「近い過去」を問い直す実践に育てていくことを目指しています。けっして、記憶に基づく歴史がダメで、資料に基づく歴史がよいと考えているわけではなくて、ふたつの歴史記述方法の関係性のようなところまで踏み込めればよいと思うのです。

文化資源学を志す人へ

私は、文化資源学の第1期生です(形態資料学OB)。ここにきて7年目、いまだによく分からない学科だというのが正直な感想ですが・・・。この学科で学ぶことを考えている方には、先輩として次のメッセージを送ります。「文化」や「文化の価値」を自明視する態度、「このすばらしい文化をいかにして普及・啓蒙するか」のような態度から議論を始めることは、たぶんうまくいかないでしょう。しかし一方で、「文化」や「文化の価値」を社会的・歴史的に創出されたものだと決めつけ、それを相対化・解体すれば満足といった陳腐な構築主義も通用しません。大事なことは、文化を理屈抜きで心から愛する前者の態度と、文化の成り立ちを冷徹に見極める後者の態度とを、自由に往復運動できる知的体力を獲得することでしょう。それがこの研究室の大きなテーマになっていると個人的には思います。

もう少し具体的に言えば、ある文化を前にしたとき、それはいかなる意味で、いかなる仕組みで「文化」として立ち現れているのか。それを文化だと思う私たちは何なのか。そういったところまで思考が届くことが大事であって、そのためにこの研究専攻では、歴史比較(タテ軸)と国際比較(ヨコ軸)の授業が豊富に用意されているのだと思います。なんだか理念的な説明で申し訳ありませんが、この説明でピピっときた方が、文化資源学の運動に積極的に参加してくださることを願っています。


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