東南アジアについての論文をまとめようとする学生向けマニュアル

(「インドについての論文をまとめようとする学生向けマニュアル」東南アジア関係補足事項)

(2009年9月水島研究室TA作成)


4. 卒論執筆の順序

(1) 語学と史料読解

 史料を読まない限り卒論は書くことができないので、卒論執筆時にどれだけ語学能力があるかは重要である。卒業のみを考えた場合、英語やフランス語、スペイン語、中国語(漢文)といった3年次までに習得した言語によって書かれた史料を探すこともできる。しかし、大学院進学者は選択したテーマや時代にかかわらず、3年生のうちから専攻希望地域で現在使用されている公用語と史料言語をコツコツ続ける必要がある。実際、大学院に入ってから留学前に日本で語学をやらず、留学後語学をはじめると、2年程度の留学では研究に必要なレベルまで習得しきれずに帰国というケースも多い。学内で語学の講義がない場合、他の大学で聴講することもできるし、駒場の講義は履修登録をすればよいだけであり、修士課程までは単位にもなるので、多額の学費を語学のために用意しなくてもよい。史料読解訓練に関しては、東洋史の先生方のゼミ(大学院を含む)に複数所属するのがよい。

 各自必要な辞書が違うため、西アジアの学部生・院生のように、共通の辞書を使うということは少ない。現在東南アジア各国の公用語となっている言語の辞書は、424教室のコピー機の近辺に配架されている。ほとんど登録本ではないため、東京大学OPACで引いても出てこない。424教室の場合、ベトナム語関係がもっとも多いが、現地語→日本語、現地語⇔英語はほぼそろっている。古い時代のものは3号館配架である。欧米諸語の辞書は総合図書館で利用するとよい。

(2)おおまかなテーマ設定と先行研究の把握

 語学と前後して早期に決定すべきはおおまかなテーマである。もちろん、本郷進学後ゆっくりテーマを見つけるのも良いのだが、卒業論文を考えると、地域と時代は早めに決定したほうが安全である。3年次から4年次にかけて大幅に地域と時代を変えて論文を書いた例は多いが、3年以上学部生をする心構えが必要であるかもしれない(必要とされる語学も変わってくるため、また、先行研究の把握作業も一からはじめなければならないため)。

 おおまかなテーマ(地域と時代)が決まったあとは、上記の「既に議論されていることを議論しても」以下のように、先行研究を把握する必要がある。東南アジアに特化した場合、まず第一歩として参考にすべきツールは以下である。

①『史学雑誌』「回顧と展望」号:1年間に国内で発表された(原則)歴史関係のすべての邦文・欧文論文・研究書を網羅している。出版情報を集めるだけではなく、執筆者がすべての論文に目を通している。東洋史研究室の副手の机の後ろにバックナンバーがあるので、簡単に見ることができる。

②『史学雑誌』巻末文献目録:東南アジアの場合、採録件数はそれほど多くない。

③東南アジアに限った場合、②より東南アジア学会機関誌の『東南アジア -歴史と文化-』の巻末文献リストが重要である。東南アジア学会ウェブサイトからダウンロードして、キーワード検索が可能であるが、一度網羅的に見る(紙媒体で時期ごと、地域ごとの研究動向を把握する)ことをお勧めする。424教室のコピー機の近辺に90年代までのコピーが簡易製本されている。39号(2010年発行)からは文献目録は廃止になる。2006年の学会名称の改称にともない、近年は歴史関係以外も広く採録の対象になっている。

④京都大学東南アジア研究所『東南アジア研究』 http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/edit/publications/seas/index_ja.htm

 最新号までPDFでダウンロード可。424教室のはいって右手、中央・中央段のあたりにもバックナンバーがある。全文目次検索キーワードあり。

⑤ほか欧米諸語・現地語主要雑誌

 東洋史研究室(助教のいる部屋)には、以下に一例をあげるような欧米各国のアジア研究に関する代表的な雑誌が置かれている。

 これらを参考に欧米の雑誌・東南アジア各国の研究機関の雑誌(現地語および英語)に関して同様に目次等をチェックするほか、時代や地域によってどの雑誌を見ればよいのかを知るためには、以下にあげる目録が参考になる。

 また、地域別の外国語学術雑誌目次検索は、後述するリンク先等から、国内や各国の著名な研究機関・研究者のウェブサイト等を見るとよい。海外の雑誌は国内の雑誌と違い、学内に所蔵がない場合も多いため、特定の論文の複写を希望する場合、ページ数まで把握した上、文学部図書館を通じ、自国内の各研究機関に複写物の郵送依頼をすると、わざわざ紹介状を持って交通費をかけて申請に行かなくてよいので安上がりである。

 例:『漢喃雑誌』に関して調べたい場合

 各地域・テーマ別にも文献解題は多く出版されている。文化人類学などの解題も、歴史学に関する文献・史料が網羅されていることもある。欧米諸語・現地語文献であっても専門の研究者による簡単な紹介が掲載されているため探しやすい。以下はその一例。


 以上①~⑤を参考に、自分の勉強したい地域・時代に関する論文や研究書を広くリストアップし、学内外の図書館でコピーをとり勉強する。最初は本郷構内に分散する図書館の使い方を覚えるだけで一苦労(慣れないとたどり着くのに時間がかかる)のため、時間のある3年生の冬学期に、講義の合間に取り組むとよい。書庫には荷物(大型ノート)が持ち込めないことも多いので、小型のメモ帳に請求番号などをメモすると効率がよい。学内にない場合、文学部図書館を通じてコピーを取り寄せるか、直接学外の図書館に出向く。

 ある程度論文をコピーして読み始めたら、自分の興味のある分野や研究が集中している分野がわかってくる。興味のある分野に関しては、コピーした論文に引用されている論文や、その論文で先行研究として挙げられている研究を芋づる式に探していく。海外の文献は学内になければ取り寄せる。この作業をするうちに、これらの先行研究がどのような史料に依拠しているのか、代表的な研究は何か、必要な語学が何か、などがわかってくる。この作業を3年生の3月までもしくは就職活動開始前に終えていると楽である。この段階までは、ある程度自力でできる作業である。また、これが終わっていないと次の史料探しの段階に結びつかない。近年、NII論文情報ナビゲータ サイニィCiNiiなどでPDFの形で入手することのできる論文も多い。東洋史の院生に検索方法や所在を聞くとよい。図書館は平日日中しか開いていないところも多いので、3年次冬学期から4年次夏学期は週に1日程度、午前すべて、午後すべてなど講義のない時間を設定しておくほうがよい。

(3)史料を探す・テーマを決める

 広い意味でのテーマ設定(時代と地域)の後、何を史料にすればよいのか、狭い意味でのテーマを何にすべきかを決める。 (2)に着手して、おおまかな時代・地域が固まったら、その時代・地域を専門にする専門家に相談すべきである。自分の所属するゼミの教員に、コネクションのある専門家を紹介されるというパターンが一般的である。ゼミの教員の(狭い意味での)専門と自分の希望する史料やテーマとの間の距離を不安に思う必要はない。まずアクションを起こすことが肝要である。

 史料を探す作業と同時並行となるのが狭い意味でのテーマの設定である。歴史学の卒業論文の場合、史料がなくては論文にならない。史料は各自、どのような目的で書かれたのか異なり、史料よって明らかにできることと明らかにできないことが異なる。よって、史料とテーマが一致していなければ(言いたいことと材料が一致していなければ)論文にならない。どうしてもこれがやりたい、というテーマがあれば、それに合致した史料を世界中探し回ることもできるかもしれないし、そこまでの時間と予算がないならば、自分の希望する地域と時代の中で、入手可能な史料を見つけ、それを読みながらテーマを柔軟に決めていったほうが無難である。一致していないのに強引に論文にしようとすると最後に論理破綻して完成できないという憂き目にあう。また、大量に史料が利用可能である分野や時代(水島教授の言葉でいう「宝の山」)、史料はあるがあまりに先行研究の多い分野や時代、史料のない分野や時代など、個人の能力によっては物理的な制限もあるし、自分が読んでいてつまらないと感じる史料で論文を書いても読者もそう感じるに違いないので、自分の関心も重要である。あまり小さいテーマを選ぶと論文になりやすい一方、大学院進学者は修士論文、博士論文にどうつなげるのか課題になることもあるし、あまりに過大なテーマを選ぶと論文にならずに苦労することもある。よって、(2)の作業を飛び越して、4年次の夏もしくは秋に「どうしたらいいでしょうか」とゼミの教員に相談するのも危険であり、(史料を読むうちに何を書けばいいのかわからなくなる人も)、自分の関心だけを考えて、史料・テーマの設定に際して専門家に相談しないのも危険である。史料とテーマがどう関連するのか、というのは、卒業論文相談会や卒論合宿、東洋史の教員のゼミに出ているうちにわかるようになる(専攻地域以外のゼミへ所属することは大変勉強になる)。この作業を卒業論文相談会(4年次5月・6月ごろ)までに終わらせる。この会は「相談会」と命名されているが、「何も決まっていません」という状態で出席すると、「この会で相談されても困ります」と厳しい声が飛んできた年もある。

 史料は国内で入手する場合と、海外で入手する場合がある。上述のように、どのようなテーマの設定をするかによって、海外までいく必要があるか、ないかは異なるが、学内のみで史料を入手できるケースは稀である。海外の文書館の史料は豊富だが、限られた時間で、複雑な行政手続のもと史料を探していくのは容易ではなく、相当の語学力と知識、下準備が必要である。史料があっても政治上の理由から閲覧を許可されないこともある。テーマとする地域を旅行で訪れるのは、イメージ作りには有効である。

(4)史料を読む=書く

 多くの学生が卒論構想発表会から夏休みに行う。史料を読むのは一人で行う作業である。読みっぱなしにせず、読みながら上記「どこから始めればわからない場合は」のように、史料の抜書きなどを行うと楽である。細かいことであるが、その際、史料ナンバーごとにファイルをわけたり、ファイル名と時代を一覧表にしたりするとわかりやすい。

(5)構成を練る

 多くの学生が4年次夏休み前から秋のゼミで行う。自分の所属するゼミの教員からゼミの時間内に発表を求められるケースがほとんどである。多くの大学院ゼミでも、希望すれば学部生の卒論構想発表は受け付けてもらえるはずである。

(6)参考文献表記方法など

 参考文献表記方法はさまざまな方法がある。卒業論文の場合、専攻地域を扱う主要な学会誌の投稿規定にあわせることもある。東南アジアをテーマにした学生があわせることの多いスタイルは、京都大学東南アジア研究所の「東南アジア研究」参考文献表記法である。 http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/edit/publications/seas/index_ja.htm

 ただし実際に引用したい文献の形態は、出版地が不明であったり、リプリントであったり未公開の学位論文であったりとバラエティに富み、投稿規定や掲載論文を見るだけでは法則性がわからず自分で論文や参考文献リストを作るのは難しいことも多い。基本的な方法は『レポート・論文の書き方上級』(櫻井雅夫著:慶應義塾大学出版会:1998年)など、何か1冊論文の体裁に関する本を手元に置いておくとさまざまな方式を網羅していて便利である。卒論構想発表会で使用するレジュメには、なんらかの表記方法に沿って記述することが求められる。大阪大学文学部西洋史学研究室の学習情報(卒論・修論執筆要領)も提出直前の心がけなど、大変参考になる。 http://www.let.osaka-u.ac.jp/seiyousi/info-3.html


5. 東南アジア・東南アジア各国の研究に関する情報

(1)東南アジア関係の学会

(2)主な地域別学会・テーマ別研究会

 以下の学会・研究会は該当地域・テーマの研究をしている研究者がほぼ参加しているもので、関東開催のもの。研究会や大会は会員でなくとも覗きに行くことは可能(通常、学生の場合100円程度コピー代を払う)。ウェブサイトは参考にはなるが、図書館や研究機関とちがって運営は会員である研究者であることが多く、研究会案内など最新情報はメールで会員や希望者に流されることが多い。

(3)国内史料所蔵機関・研究機関

(4)海外史料所蔵機関・研究機関

(a)『岩波講座東南アジア史別巻』・『アジア歴史研究法入門5』

 1990年代以降の最新の史料状況は、『岩波講座東南アジア史別巻 東南アジア史研究案内』(岩波書店:2003年)を参照のこと。「金石文」「ベトナム史料」「カンボジア年代記」「タム文字史料」「タイ語史料(前近代)」「タイ語史料(近現代)」「ビルマ史料」「ムラユ語史料」「ジャワ(およびバリ語)史料」「フィリピン史料」「漢籍」「ヨーロッパ語史料」「アジア歴史資料センター」と13項目にわかれている。基本的に、1880年代までに刊行された著名な史料紹介書・研究方法論を踏まえて書かれているため、東南アジア全般に関しては『アジア歴史研究法入門5 南アジア・東南アジア・世界史とアジア』(同朋社:1985年)など、地域・時代別にはそれぞれの項目で挙げられた書籍とあわせて参考にする。以下、『岩波講座東南アジア史別巻 東南アジア史研究案内』の各項目を簡単に紹介する。

(b)ほか

 『岩波講座東南アジア史別巻 東南アジア史研究案内』・『アジア歴史研究法入門5 南アジア・東南アジア・世界史とアジア』は必読の書であるが、史料の公開状況や史料調査の申請方法は流動的なため、最新の状況を以下のような雑誌記事やニューズレターの記事でフォローするとよい(フィールドワークの場合も同様である)。このような情報は、各種雑誌・ニューズレターやウェブサイトなどに分散しているため、すでに知っている人に尋ねるか、「文書館」+「タイ」などをキーワードにCiNiiで検索する。主に掲載されるのは、特定の地域の学術雑誌の『現地通信』などや、国立公文書館の『アーカイブズ』、日本図書館協会の『現代の図書館』など図書館学関係の雑誌である。一例を以下に挙げる。

(5)各国情報 (ウェブサイトリンク集)

(a)東南アジア一般

(b)各地域別

(6) 大学院教員・学内各種研究会へのコンタクト

 在籍・卒業院生の研究テーマと学生の主宰する研究会の情報は東洋史研究室ウェブサイトに掲載されている。また、大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻(アジア史)所属の教員もしくはゼミのウェブサイトは以下である。厳密に言えば東洋史の学部生とは直接の関係はないのだが、大学院レベルで東洋史研究室と非常に密接な関係がある。


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