社会政策学会第102回大会

テーマ別分科会

福祉国家と福祉社会

2001年5月26日(土) 13:00〜14:45

中央大学多摩キャンパス

プログラム 

座長 武川正吾

1 福祉国家体制の再編と市場化−−日本の介護保険を事例として

平岡公一(お茶の水女子大学)

2 経済活動の国際化と福祉国家−−EU諸国を中心に

下平好博(明星大学)

3 反グローバリズム・反市場原理主義と福祉国家

山森 亮(東京都立大学)

趣  旨

この分科会では,福祉国家と福祉社会が現在直面している課題についてとりあげる.さまざまなトレンドが福祉国家と福祉社会を取り巻いているが,それらのなかでもとりわけ影響力の大きなものとして,市場化とグローバル化が考えられる.社会政策をすべて市場に委ねてしまうことは不可能だが,準市場的な状況は着々と形成されつつある.グローバル化による影響についてはまだ不分明なところもあるが,各国の社会政策のありかたに大きな影響を及ぼしつつあるのも事実である.他方,市場化やグローバリズムへの対抗的潮流もみられなくはない.これらの論点に関して新たな問題提起のおこないうる分科会となることを望んでいる。

報告要旨

 

1 福祉国家体制の再編と市場化−−日本の介護保険を事例として

平岡 公一(お茶の水女子大学)

本報告の目的は,福祉国家体制再編の戦略の一つとしての社会サービスの市場化を分析する視点と枠組みを検討することである.報告では,まず第一に,(1)市場化のレトリックやイデオロギーと市場化の現実の区別,(2)市場化と多元化,民営化,自由化などの類似概念の区別,(3)疑似市場論を含む市場化の分析枠組みの有効性の検証の必要性を指摘する.続いて,介護保険制度の実施状況に関する全国の自治体の質問紙調査の結果,および自治体の事例調査の結果を紹介しながら,日本の介護サービスの市場化の状況に関する分析を行う.

 

2 経済活動の国際化と福祉国家−−EU諸国を中心に

 下平 好博(明星大学)

経済活動の国際化が福祉国家に与える影響をめぐって,次の4つの点が争点となってきた.

1.国際化によって各国の社会経済政策の自律性は失われるのか?
2.それによって,「底辺への競争」が起きるのか?
3.また,そのような「底辺への競争」が引き起こされるとき,それは各国がアングロサクソン・モデルへ収斂することを意味するのか?
4.そして,そのことは結果的に,国民国家の終焉につながるのか?

ここでは,経済通貨統合を完成させたEU諸国を対象に,これら4つの問いにひとつずつ答える形で,経済活動の国際化が福祉国家に与える影響を明らかにする.

 

3 反グローバリズム・反市場原理主義と福祉国家

山森 亮(東京都立大学)

 表題から連想される一つの方向性は以下のような作業だろう.すなわち反グローバリズム運動の実践やそこで生み出される言説を取り上げ,そこから福祉国家の可能性と限界を再構成するということ.しかしそれは報告者の能力的制約からできない.

 そのため本報告では一つの迂回路として,反グローバリズム・反市場原理主義の文脈での規範的な福祉国家論のもつ含意について,部分的な考察をすることとしたい.