最後の復興住宅:ベルデ名谷

 −− まちがつくれない −−

 
建築後,間がないため,外観はまだきれいです.一種のモニュメントだと思えば,山間を有効利用した興味深い建築物です.しかし住宅であることを知ると,思いは複雑です.すでに自殺者が一人,孤独死のひとが一人出たそうです.

 

社会学の教科書には,社会計画による失敗の事例として,スラム・クリアランスとその後の再開発にともなうコミュニティ破壊の様子が記されます.たいていの場合,それは半世紀くらい前の話なのですが,日本では,それがまだ現在進行形なのです.

さすがに,この集合住宅の内部は,バリアフリーの仕様となっています.車椅子が通れるように廊下は広く,また,高齢者が歩きやすいように,手すりがあちこちにつけられています.しかし何かが違うようです.バリアフリーというのはノーマライゼーションの手段のはずですが,どこか根本的なところでノーマライゼーションがないがしろにされているように思えるのです.
住宅の間取りが各階ごとに規格化されています.入居者は,低層部分から高層部分にかけて,年齢階層別に,住宅が配分されています.その結果,年齢別によるゲットーが形成されます.イギリスのニュータウンの理念のひとつは「均衡のとれたコミュニティ」(balanced community)というものでした.多様な人びとから成り立つコミュニティの形成をめざしていたといえます.どうも,こうした思想とは無縁の建築物のようです.