連帯と承認の弁証法

−−福祉国家と福祉社会の協働−−

武川正吾

従来,福祉国家と福祉社会の関係については,「福祉国家から福祉社会へ」といった図式でとらえられることが多かった.これは福祉国家を否定的なものとしてとらえた上で,それをのりこえるものとして福祉社会を構想するという立場である.ここでは,従来の福祉国家研究の学説史や,福祉社会に関する議論を踏まえながら,「福祉国家と福祉社会の協働」という立場を打ち出したい.

また,福祉国家と福祉社会の協働といった場合に,従来は,混合福祉(welfare mix)や福祉多元主義(welfare pluralism)の議論が支配的であったが,これらはサービス供給にバイアスがあるとともに,両者の関係のとらえかたが静態的であった.ここでは,こうした限界を超えるために,「連帯と承認をめぐる福祉国家と福祉社会の弁証法」といった立場を提唱したい.

福祉国家には「給付国家」としての側面と,「規制国家」としての側面がある.前者は社会保障や税制をつうじた各種の所得再分配として具体化されている.後者は各種基準法や差別禁止立法をつうじた様々な規制措置として具体化されている.また,前者の背後には<連帯>といった価値が想定されている.後者の背後には<承認>といった価値が想定されている.福祉国家と福祉社会の協働は,これら二つの価値の実現のためのものでなければならない.

国民国家が大きすぎるとともに小さすぎると言われるようになってから久しい.したがって,両者の協働を考える場合には,ローカルな水準とグローバルな水準での問題を考える必要がある.とはいえ,ナショナルな水準においても残された問題は存在する.

このような前提に立つとき,21世紀の初頭において,優先的に取り扱われるべき課題群としては,(1)グローバルな水準における<連帯>,(2)ナショナルな水準における<承認>,(3)ローカルな水準における<連帯>,といった三つの課題群が存在するように思われる.

(1)は,1980年代以降のグローバル化のなかで登場するようになった課題群であり,各国政府が社会政策に対する自由裁量の幅を狭められつつあるといった事態に由来する(「グローバルな社会政策」).(2)は,いまだに残されている社会的マイノリティの「歪められた承認」の問題に起因する(「アイデンティティ政治」).(3)は,地域社会における社会サービスのありかたと関連する(「地域福祉」).

これらは,公共政策における実践的な課題であるとともに,社会学をはじめとする社会諸科学が取り組むべき理論的な課題である.