卒業論文の書き方

武川ゼミ

 

 社会学科は卒業論文が必修となっており,学生諸君は卒業にあたって卒業論文を執筆することになります.社会学科では,従来から,400字詰め原稿用紙に換算して約200枚程度の論文を書くのが標準となっています.

 英語圏の大学では,学生生活のマニュアルが多数出版されており,学生が勉強するための技術(skill)が事細かに説明されています.当然,そのなかにはレポートや卒業論文の執筆に関するものも含まれています.日本でも勉強のためのスキルの解説書を企図した『知の技法』(東京大学出版会)が刊行されましたが,この本,読み物としてはたいへん面白いが,技術書としてはどこか物足りない(もっとも「西田幾太郎の文章を真似してはいけない」といった,きわめて有益かつ実際的な指南もあります).そこで,卒業論文の書き方を,ここでは,なるべく具体的に記してみることにします.

 とはいっても論文の書き方は各人各様で,全員が同じ方法で書かなければならないとういものでもありません.ですから,以下に書いてあることは,あくまで一つの方法だと思って読んでください.また,このページは,武川ゼミを主ゼミとして卒論を書く人のためのマニュアルですから,他の人には役立たないかもしれません.

 

1 まず,400字詰原稿用紙換算5枚以内に,卒論で書きたいことをまとめてみましょう.そのさいに,卒論のテーマとの関係で最近読んだ本としてどんなものがあるかについて文献リストを作成してみます.また,3年生のときに何をしたかを中心に卒論の準備状況についても記してみます.

2 以上の文書を作成したら,次に,この文書を持参して指導教官に相談してみましょう.その場合,事前にappointmentを取ってから面接を受けるというのがルールです(面接時間・オフィスアワーについてを参照).その際,自分の保存用と教官への提出用の2部作成します.

3 さて,卒業論文で何を書きたいがはっきりしてきたら,実際に書く準備を進めます.この場合参考になるのが,論文の書き方に関するマニュアルです.日本語で書かれたマニュアルが何冊か出ていますが,とりあえず1冊読むとすれば,オススメは,澤田昭夫『論文の書き方』(講談社学術文庫,1977年)です.この本は歴史の論文の書き方を解説したものですが,社会学の論文を書く場合にも大いに参考になります.またこの本が出たのは20年前で,パソコンやインターネットが普及した現在では,役に立たない記述もあります.ここで記されているノウハウはパソコン以前のものであるため,現在の情報環境のなかでは,この本で書かれている方法よりも効率的に行なえます.しかし,パソコン化の可能なスキルが多いので−−ちょうど梅棹忠夫『知的生産の知術』で提唱された京大式カードと同じ−−,現在でも適用可能です.どうすれば,もっと効率的に行えるかということを考えながら読めば,パソコンの利用技術も高まるはずです.

4 まず,本屋さんに行って,この本を買ってみましょう.重要な本は自分で買って所有することが肝要です.身銭を切ってこそ,中身も身に付きます.

5 買ってきたら,とりあえずこの本の序から第7章まで(15頁〜 142頁)を読みます.第7章までを通読したら,次に,22頁〜32頁,103頁〜142頁を再度熟読します.

6 読み終わったら,次に,自分で書こうとしている卒論の「問題の場」problem area, subject area(『論文の書き方』23頁参照)が何であるかを明確にすることにします.その際, 扱おうとしている問題を出来る限り特定化することに心がけましょう.

7 「問題の場」が決まったら, この問題を扱った著名な標準的文献を少なくとも1冊は読んでみます.何を読んだらよいか分からないときは,見田・田中・栗原編『社会学辞典』弘文堂,『リーディングス日本の社会学』東大出版会,『社会学講座』東大出版会,見田ほか編『社会学文献学事典』弘文堂,などに掲載されている文献目録を参考にして決めましょう.それでも分からないときは,指導教官に相談しましょう.

8 標準的な文献を読了したら,「問題の場」から自分が扱おうとする「トピック」(『論文の書き方』23頁参照)を引き出すこと.その際,「トピック」は必ず疑問の形で書いてみること.例えば,

  • 「非行の低年令化はなぜ起こったか」
  • 「日本的経営を海外に普及することは可能か」
  • 「社会保障は家族の結束を弱めるか」

等々.

9 決まった「トピック」を明らかにする上でで必要と思われる文献を少なくとも15冊以上リストアップします.文献の記載の仕方は,『論文の書き方』58〜59頁を参照するか,あるいは『ソシオロゴス』第5号に掲載の文献挙示法を参照のこと.

10 さていよいよ論文執筆の開始です.澤田昭夫『論文の書き方』第6章(とりわけ107〜115頁)を参照しながら,執筆を予定している卒業論文の目次構成ないしアウトラインを作成します.そして,アウトラインにそって作業を進めましょう.アウトラインや研究計画がしっかりしていれば,作業を進めるとひとりでに論文が出来上がるはずです.

11 GOOD LUCK !

 

番外編

 論文を書くには,本の読み方と文章の書き方に関する技術(skill)を身につける必要があります.

 本はただ漫然と読むものではありません.本の構造を知ることが重要です.読み方には,目的に応じたコツがあります.そうしたコツを身につけるためには,以下の参考書を読むと良いでしょう.

 また,日本語の文章を書く場合も同様です.論文の執筆の場合には,達意の文章を書かなければなりません.このためには,とりわけ,段落(paragraph)やトピック・センテンス(topic sentence)の考え方(concept)を理解する必要があります.残念ながら,まだ,こうした考え方を理解していないプロの研究者をいます.しかし若い諸君は,先輩の誤った慣習を真似してはいけません.文章の書き方についても,以下の参考書を読むと良いでしょう.

【参考書】 オススメ

M.アドラー C.ヴァン ドーレン『本を読む本』ブリタニカ出版,1978年.
板坂元『考える技術・書く技術』講談社現代新書,1978年.
板坂元『何を書くか,どう書くか』光文社カッパブックス,1980年.
澤田昭夫『論文の書き方』講談社学術文庫,1977年.
澤田昭夫『論文のレトリック』講談社学術文庫,1983年.
野口悠紀雄『「超」勉強法』講談社,1995年.
野口悠紀雄『「超」勉強法 実践編』講談社,1997年.
本多勝一『日本語の作文技術』朝日新聞社,1982年.
 
 
 

 ver1 1998/4/20