有朋自遠方来

 

 学生時代に,某先生から聞いた話.学会があるとき,大学の教師はどうあるべきか.いちばん偉いのは,学会があると言って,休講にして,家で勉強をする先生(これは学者の鏡かもしれない).次に偉いのは,学会があると言って,休講にして,家で寝てるか遊びに出かける先生(これなら,できるかもしれない).三番目に偉いのは,学会があると言って,休講にして,学会に出席する先生(これがいちばん多いパターンか,笑).そして,いちばんだめなのが,学会があるにもかかわらず,休講にもしないで,授業を続ける先生.その先生は,自分はだめな教師なので休講にはしない,と宣言されて,翌週も授業をされた.いまから考えると,本当は,その先生がいちばん偉かったのかもしれない(苦笑).

 ひとはなぜ学会に出席するのか.研究発表をして業績づくりをするというのは,ひとつの実利的な学会出席の目的であろう.とりわけ若いうちは.私もそうだった.刺激的な研究発表を聞くことができれば,それも学会に行く楽しみのひとつになるかもしれない.学会出張にひっかけて見知らぬ土地を訪ねることができれば,それもまた楽しい.しかし,なんと言ってもいちばんの楽しみは,なかなか会うことのできない友だちに会うことができるということだ.外国に住んでいる旧友と思いもかけず会えたりするのは,ことのほかうれしい.会うことができるのは,遠くに住む友人だけではない.同じく東京に住んでいながら連絡のなかった友人と,はるばる遠くの地を訪ねて,数年ぶりで会えるなどということもめずらしくない.

 さらに楽しいのは,それまで書いたものをつうじて名前だけしか知らなかったひとに会えたり,このホームページや拙著の未知の読者から声をかけられて知り合いになれたり,といった出会いの体験であろう.私は人見知りするほうだから,なかなかそういう機会にはめぐまれないが,それでも,これまで何度かそうした経験をしたことがある.見ず知らずの人から声をかけられて意気投合するということも,まったくないわけではない.立食パーティや会場への途中に偶然出会って名刺交換だけして,そのまま忘れてしまっていたのが,その後,別のところで知り合いになったあと,昔の名刺を発見して,はたしてどこで会ったのだったのか,などど思い悩んだりすることもある.そして,あるとき,突然ひらめいて,そのときの情景をなつかしく思い出すのも,また楽しからずや.

[2000/6/12]

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