大物政治家の系譜

 仕事から帰ってきたら,家人(ちょっと前時代的な表現かな?)から,新井将敬代議士が自殺したことを知らされたのはショックでした.日興証券に代議士の地位を利用して違法な利益供与を要求していたのか否かについて,僕はその真偽を判断する材料を持ちません.もし報道されているようなことが真実であったとしたら,それを是認することはできない.

 しかし彼のキャラクターは好きでした.というのは,新井氏は,しゃべっていることの内容を理解することのできる数少ない政治家の一人だったからです.わが国では,古来,大物政治家の条件の一つは,何を言っているのか分からない,ということです.古くは竹下登前首相,最近では,三塚前大蔵大臣がその典型でしょう.

 大物政治家の系譜から逸脱している,言い換えるなら,理屈が通用する,という点において,僕は彼に好感を持っていました.それは,政治の出発点は討論である,という,きわめて近代主義的な偏見を僕が持っているからです.だから自殺などしてほしくなかった.

 もしかして彼の自殺に胸を撫で下ろしている政治家がいるのかもしれない,と考えると,この国の政治に対しておそろしく絶望的な気分になります.また,死者をむち打つ昨今の風潮は僕の前近代主義的な美学に反します.ともあれ,いまは冥福を祈るのみです.(1998/2/19)

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