地域福祉計画のスタート−−総合化と分権化と

武川 正吾 

 

 2000年に成立した社会福祉法は,その目的の一つとして,「地域福祉の推進」を掲げた(1条).この目的を実現するため,同法は,市町村が地域福祉計画を,都道府県が地域福祉支援計画を策定することを定めた(2003年度施行).

 2003年度に始まる計画策定の準備として,全国社会福祉協議会は,現在,6つの市町村と3つの府県でモデル事業を進めている.また,社会保障審議会福祉部会は,この1月に,策定指針をまとめた.

 社会福祉法のなかでは「地域福祉」という言葉が何度も使われ,重要な位置づけを与えられているが,この言葉は条文のなかではあまり詳しく定義されていない.

 このため「地域福祉とは何か」という声を現場の社会福祉関係者のあいだでもよく聞く.モデル事業を実施している自治体のなかでも,このことは例外ではない.

 地域福祉は,カタカナ言葉が氾濫する日本の社会福祉の世界のなかにあって,数少ない国産概念の一つである.コミュニティ・ケアがイギリスの実情から切り離して考えることができないのと同様,地域福祉も日本の実情から切り離して考えることはできない.戦後半世紀の社会福祉の歴史のなかで登場してきた種々の理念(地域組織化,在宅福祉,住民参加型福祉,利用者主体,等々)を集大成したものが地域福祉だと考えることができる.

 とはいえ「地域福祉」という言葉の意味について,あまりむずかしく考える必要はない.要は,地域住民が主体となって社会福祉を考え実行していったならば,それが地域福祉だということである.地域福祉は,何か固定された「内容」というよりは,内容をたえず作り変えていくための「方法」であるからだ.

 行政計画としての地域福祉計画を策定するにあたっては「総合化」と「分権化」という二つの視点が重要である.

 保健・医療・福祉の総合化が叫ばれるようになってから久しい.最近では保健・医療・福祉・住宅の総合化が求められている.90年代には,各市町村で高齢者,障害者,児童など対象者別の社会福祉計画が作られるようになった.2003年という時点で策定される地域福祉計画は,これらの計画の総合化を視野に入れたものでなければならない.

 しかしさらに重要なのは「分権化」の視点である.住民参加もその延長上で考えられるべきだろう.

 老人保健福祉計画の策定や介護保険の導入は,トップダウンで行われた面が否めない.社会福祉の資源を緊急に整備するため,これは有効な方法であり,それなりの効果を上げることができた.

 しかし地域福祉計画の場合には,このような計画策定の方法は通用しない.市町村は住民参加の支援をまず心がけるべきであり,都道府県は市町村による地域福祉計画の策定の後方支援に徹すべきである.都道府県が策定するのは支援計画であって,地域福祉そのものの計画ではない.地域福祉計画は,市町村職員や都道府県職員の頭の切り替えがとくに必要な分野である.

 総合化と分権化は両立しないこともある.とくに社会福祉は制度が複雑であるため,住民参加によって,いきなり総合化にはたどりつかないかもしれない.そのような場合に優先される視点は,総合化ではなくて,分権化ないし住民参加の原則の方であろう.