大学院の授業はゼミのみです。
内容 = 発想シミュレーション
東京大学で大学院の授業を担当するようになってから10年以上に渡って、「発想シミュレーション」という独自の授業を続けてきました。
目的 = 発想技能の訓練
発想シミュレーションの目的は、独創的な研究アイデアを生み出すための認知技能を訓練することです。
独創的な研究には独創的なアイデアが不可欠です。実験装置、プログラミング、統計分析などが高度な水準にあっても、それだけでは、堅実な研究にはなっても、独創的な研究にはなりません。
独創的なアイデアが生まれる場面は幾通りもありますが、大学院で実際に体験できる場面は、普通、せいぜい1通りか2通りぐらいです。指導教官からテーマを与えられて研究をおこない、学位論文を書く場合には、研究アイデアを自分で生み出す経験を1度もせずに終わってしまうということすら珍しくありません。
発想シミュレーションでは、いろいろな場面を設定し、そこで研究アイデアを生み出す練習をします。それによって、将来、研究の中で遭遇するどのような場面でも、独創的な研究アイデアを生み出せるようになることを目指しています。
方法 = 発想課題
独創的な研究アイデアが生まれる状況をシミュレートした課題を教官が用意しています。この課題は、科学史、科学哲学、独創性に関する心理学的研究、教官自身の体験・見聞などをもとにして作成し、10年以上に渡って改良を続けてきたものです。
課題の種類 = 一時課題・年間課題・基礎技能課題
一時課題
受講生は、自分の研究分野から適切なテーマを選んで、それを材料に、課題が設定したやり方で独自のアイデアを生み出す努力をします。たとえば、「矛盾解消課題」では、自分の研究分野から、一見矛盾しているように見える実証的な知見を2つ選び出し、それらを矛盾なく統一的に理解できるような説明を考案します。
生み出したアイデアとその背景説明を答案レジュメにまとめて、参加者全員に配布します。他の受講生は、そのアイデアの妥当性と独創性を評価し、その結果を論評レジュメにまとめて、やはり参加者全員に配布します。
答案レジュメと論評レジュメにもとづいて、授業では、提出されたアイデアの妥当性と独創性に関する検討を討議によっておこないます。
年間課題
一時の集中的な努力によってアイデアを生み出すという方法ではなく、たまたま頭に浮かんだアイデアを記録しておくという方法でアイデアを得る訓練をします。たとえば、「セレンディピティ課題」では、実証的な研究をおこなっている最中に生じた偶発時に注目し、その心理学的な意味を考えてみます。まだ研究がなされていない現象であれば、その現象を説明する仮説を考案し、その仮説の妥当性を検証するための実証的研究を工夫してみます。
この年間課題では、あらゆる出来事の中から研究アイデアを見つけ出そうとする態度を養うと同時に、思いついたアイデアをこまめにメモしておくという習慣をつけることを狙っています。
年に2回、メモしておいたアイデアの中から価値の高いものを選んで答案レジュメにまとめ、参加者全員に配布します。アイデアの価値・独創性は討議によって検討します。
基礎技能課題
一時課題・年間課題をおこなうための基礎になる認知技能を訓練します。
たとえば、「説明課題」では、誰もが知っている心理学的な知見を選び、それを演繹できる定式化された説明を構成します。すなわち、説明に含まれる主要な仮定をすべて書き出し、それを使って、ターゲットとなった知見が論理的に演繹できることを示します。
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