Sir Hudibras's Serendipity

2002. 6. 1 登載

 ネット上で 予想もしないときに拙著へのコメントに遭遇することがあります。

 言及してくださったことに感謝しますし、またぼくは謙虚な人ですから、どんなご意見であれ、心深く学び、今後の教訓とします。とはいえ、そのまま放っておくより、ぼくの当面の意見をはっきり言っておいたほうが、お互いのため、ということもあるでしょう。

 以下には、そうした意見交流の機会として、遭遇したサイトの http と引用(青)のあとに、ぼくの所感と意見(黒)を記します。ピューリタン騎士ヒューディブラスのように大仰な長広舌になっちゃってるかもしれませんが (ヒューディブラスについては、ホーガースの絵とともに 『民のモラル』 pp.25-36, 258-263 を参照ください)。

 念のため、言及してくださった方には、個人的な恨みもつらみもありません (なにしろ、ぼくの存じあげない方です)。 事に即してのディベートとして受けとめてください。 妄言多謝。

近藤 和彦 http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~kondo/


http://www10.big.or.jp/~espace/book/books.html

Book Review

現在自分が読んでいる本について。

どこまで読んだかという備忘録です。

と同時に、読書のモチベーションのため。

2002/2/22より記録開始。。。

 

No. 書名         著者/訳者名 書店   分類          どこまで?  日付    読破

1 文明の表象 英国  近藤和彦  山川出版  歴史/イギリス史  240p/240p  2002/2/22 ♪

 あとがきにはまとまった本として読んで欲しいって事が書いてありますが、どう見ても4本の論文を並べた感じ。歴史書だと思って読むと、第二章はともかく、ちょっとがっかりするかも。第一章では近代日本から西欧文明の表象としてのイギリスがどのように捉えられたのかというお話で、マル系史学の展開をおさらいする。第二章ではイギリス史に入っていくが、パクス・ブリタニカは外的要因も大きい一方、内的な知識人の営みもあるとして、二重革命、18世紀と19世紀の連続と分断について論じる。第三章は、時代を大きく下って現代について。ダイアナとチャールズの婚姻の表象するもの、さらには全く同時期のイギリス社会の中の分断状況、さらにはブレア政権の成立を論じている。

 

 今の時代、こういう本を終わりまで読んでくれた、というだけで感心し、また読書サイトに載せてくれたからには感謝すべきなのかもしれない。

どういう人か、手がかりはないが、次の項にあるように「レポートを書くために、とりあえずは近藤和彦氏の書いた部分」を読んだというのだから、案外近くにいる学生なのだろうか。せっかくのネットの縁なので、ネット=内容に即した意見を言わせてもらいます。

「歴史書だと思って読むと、第二章はともかく‥‥」というからには、第一章はこの人のいう「歴史書」の範疇に入らないわけだ。歴史書って、何なの? あるいは歴史って何なの? と考えたことありますか。昔の出来事をただ叙述したら歴史書なのか。史学概論で、すこしはものを考えるきっかけをえたのだろうか。

「‥‥マル系史学の展開をおさらいする」というのには、頭に来た。何を読んでるんだ。いったい福沢諭吉や夏目漱石、そして久米邦武はマルクス主義者ですか。大塚久雄も丸山真男もマルクスを読み、そこからある大事なものを摂取したが、マルクス主義者ですかと尋ねられたら、ほとんど感情的になって反論しただろう。ぼくもマルクスを読んだ。人類史の全体をとらえたいという強い意志、個別や部分に満足することなく、およそ手に入る近代知のすべてを動員して全体を見ようとした姿勢にぼくは影響された。マルクスなしのぼくの学生時代はないだろう。それはしかし、近代思想の完成体としてのマルクス主義だった。ヒューマニズム、そしてサルトルの実存主義が不可分の要素(前提?)として付随していた。それは「近代」の良き面と信じられたすべてを縮約したものだったのだと思う。ソ連や中国の国家社会主義とは全然ちがうものだった。

河野健二、角山栄、川北稔といった人々の仕事の核も、忘れちゃならないが、じつはマルクス主義労農派の世界資本主義論が支えになって1960年代までに形成され、のちに I・ウォーラステインの世界システム論によって画竜点睛をえたのだ。

「マル系史学」などといって片づけ、分かったような口を利いていると、せいぜいブッシュ的ジコチュー世界観から一歩も出ることはできないだろうよ。

なお、「‥‥外的要因も大きい一方、内的な知識人の営みもあるとして」 というのは、意味不明。概して、この人は知的に構成された文章を読むのにまだ慣れてないのとちゃうか。たとえば小田中直樹『歴史学のアポリア』のような本は、いったい何が問題とされているのか、ぜんぜん分からないかもしれない。試してみてくださいな。

 

2 世界歴史16巻 主権国家と啓蒙   近藤和彦 他  岩波書店  歴史  80p/266p  2002/2/25 ♪

 レポートを書くために、とりあえずは近藤和彦氏の書いた部分だけ。「主権国家と啓蒙」というテーマに関する通史。過去の岩波講座の世界歴史と違って、一貫した筋を通して編集するという方針ではなく、この通史の他に局所的な論文が多数掲載される形となっている。通史ではヨーロッパ世界が中心の記述となるが、個別論文の方では周辺世界やその文化面までもが含まれている。 

 

 これまた、ご苦労さま。

これまでのヨーロッパ近世史がどうだったか、それとの違い、or 自分はヨーロッパ/近代/文明というものに どういうイメージをもってきたか、といった問題意識がなければ、たいくつな、ただの概説なのでしょう。こういう状態で歴史書(!?)を読むのは、つらくないだろうか。

 

3 日米関係の原点 ペリー来航に関する研究  濱屋雅軌  高文堂出版社  歴史/日本近世史 101p/101p  2002/3/2 ♪

 ペリー来航期の日米の状況について。第一章では米国のジャーナリズムを題材にしてペリー来航に至る対日認識の変化を語る。第二章では老中首座・阿部正弘の対外認識を中心に異国船打払令復活の評議の背景を探り、ペリー来航以後の日本国内の領主、領民の困窮について検証する。私は西洋史専修の人間ですが、論の当否はともかくとして論の展開が甘い感じがしました。・・・日本史のレポートでつっこめ、という課題だったので選んだのですが。

 

同じテーマなら、もっと他にいくらでも読むべき本があるでしょうに。でも、学生としては「‥‥論の展開が甘い感じがしました」 という感想をもった点に、将来の芽を認めるべきかな?

 

4 西洋世界の歴史   近藤和彦 編  山川出版   歴史/西洋通史  p/413p  2002/2/22

 ???

 

こちらは講読してくださった皆々さまのお陰様で、ようやく版元品切れ、増刷が出ます。 散見した小さな間違いを訂正し、巻末の参考文献を補って、6月末までには本屋に並ぶでしょう。


  発言・小品文など / 著書・訳書(被書評をふくむ)/ 近藤和彦 HP