『言語研究』第114号(1998/03), p.160

日本言語学会第116回大会(慶応義塾大学)・1998年6月21日・研究発表要旨

マリ語後置詞考

松村一登(東京大学)


 後置詞は,多くの言語学術語辞典において,文法的機能の点では前置詞と変わらず,その目的語に対する相対的位置だけが異なる機能語であり,前置詞とともに接置詞(側置詞)という上位概念に包括されるとされている。しかし,個別言語の文法において,前置詞あるいは後置詞と呼ばれている形式を比較してみると,形態論的性質,統語論的機能において,現実の前置詞と後置詞は,決して鏡像的関係にはない。

 マリ語の後置詞は,従属節を導く主要な手段である,人称接辞などの接尾辞を複数付加することができる,対格(連用格)ではなく属格(連体格)をとり,連体修飾構造との著しい類似性がある,など,英語などの前置詞との性格の違いが大きい。

 したがって,マリ語の後置詞構造に対して,英語の前置詞句に対して立てられている統語構造をそのまま適用するのは,マリ語の文法構造の適切なとらえ方ではない。