トップページ公募研究

2011年夏タジキスタン調査報告

澤田稔(富山大学)

 概要
  • 調査者:澤田稔(富山大学)、稲葉穣(京都大学)、河原弥生(東京大学)
  • 日程:2011年8月6日〜21日
  • 用務地:タジキスタン共和国(ドゥシャンベ、ハールグ)
  • 用務先:非政府組織Merosi Ajam等
 報告
公募研究「近現代の中央アジア山岳高原部における宗教文化と政治に関する基礎研究」の研究構成員である澤田稔(富山大学)と稲葉穣(京都大学)、同研究協力者の河原弥生(東京大学)の3名は、本年8月6日から21日の日程でタジキスタン共和国に出張し、文書資料の探索と複写(PCのスキャナーやカメラによる)、歴史的建造物などの史跡の観察を主とする実地調査をおこなった。その主な対象地域は同国東半部にあたる山岳バダフシャーン自治州である。調査にあたって同国のウミード・シェールザードシャーエフ氏(非政府組織Merosi Ajam副代表、本公募研究協力者)の支援を得た。

踏査の行程は以下のとおりである。四輪駆動車で首都のドゥシャンベから山岳バダフシャーン自治州に入り、文書調査と歴史的建造物などの観察をおこなった。州都のハールグ市内で9点、ルーシャーン郡バッルーシャーン村で10点の文書を複写した。ルーシャーン郡ヴァーマル町ではシャー・ターリブの廟を、ハールグ市北郊テイメ村でザイヌル・アービディーンのカダムガーフ(「足跡の地」)を訪ね内部を観察することができた。

シャー・ターリブの廟 ザイヌル・アービディーンのカダムガーフ


ハールグ市からシュグナーン郡のグント渓谷沿いのパミール・ハイウエーをさかのぼり、途中の村落と沿道の史跡を訪ねた。リーヴァク村で文書調査をおこない、1点を複写した。バーゲヴ村の古代遺跡カーフィル・カラの岩山には円形の遺跡が見られるだけでなく、登り口にムスリム聖地もあり、注目される。ムーン村とヴァンカラ村の間の沿道には、スミ・ドゥルドゥル(「ドゥルドゥルの蹄」という聖地もあった。ヴァンカラのイマーム村には、シーア派の第5代イマーム、ムハンマド・バーキルのカダムガーフがある。


カーフィル・カラの円形遺跡 カーフィル・カラ登り口にある聖地
スミ・ドゥルドゥル イマーム・ムハンマド・バーキルの
カダムガーフ


パミール・ハイウエーはグント河から離れると次第にパミールの高原部へ入っていく。コイ・テゼク峠(高度4272m)を越えてムルガーブ郡に入ると、広やかな丘陵地にヤクが放牧されている光景も見られた。アリチュール村は戸数200で、パミーリーとクルグズが混住しているという。また、アリチュール村の西方、ヤシル・クル湖近くのブルン・クル村にはパミーリー20家族、クルグズ16家族が住んでいるという。ムルガーブの町からゾル・クル湖方面の道をとり、ジャルトゥ・グンバズを経てイシュカーシム郡のランガル村にたどり着いた。


アリチュール村 ヤシル・クル湖
ムルガーブの町 ジャルトゥ・グンバズの廃墟


ランガル村で聖地シャー・カンバリ・アーフターブの向かいに位置する博物館(アーサール・ハーナ)(集会所ジャマーアト・ハーナともいう)の建物の内部を見学してから、ハールグ市への帰還の途中、ヴラング村の「仏教遺跡」の麓にある聖地アブドゥッラー・アンサーリーを訪れた。さらに、温泉地ガルム・チャシュマにおいて温泉と結びついた聖地を観察した。


聖地アブドゥッラー・アンサーリー ガルム・チャシュマの聖地

ハールグ帰還後は、近郊で文書調査をおこない、シュグナーン郡のスーチャーン村で19点、いずれもラーシュトカルア郡に属するタヴデム村で1点、ヒドルジェヴ村で8点の文書を複写した。今回の文書調査の結果、20世紀初めの土地関係の証書、宗教指導者の系譜書、アーガー・ハーン1世、2世、3世の書簡などを含む合計48点の文書を複写できた。これらの文書資料と上記のムスリム聖地の観察データは中央アジア山岳高原部の社会と宗教文化を考究する上で貴重な材料となろう。日程の都合でドゥシャンベにおいて十分な時間を調査に割くことが難しかったけれども、市内のタジキスタン考古博物館を見学した。