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「近現代の中央アジア山岳高原部における宗教文化と政治に関する基礎研究」
平成23年度第1回研究会報告
澤田稔(富山大学)

 概要
  • 日時:2011年6月4日(土)
  • 場所:東京大学本郷キャンパス法文1号館217教室
 報告
平成23年6月4日、東京大学本郷キャンパス法文1号館217教室において第1回の研究会を公開形式で開催した。参加者は報告者3名を含めて10名であった。本公募研究は今年度より新規にスタートするので、研究計画の趣旨説明と研究構成員3名の各専門分野に関わる研究報告をおこない、研究会を立ち上げた。

まず澤田稔が「プロジェクトの趣旨説明」をおこない、(1)東西トルキスタンの中間地点、(2)オアシス平原部の源流域、(3)現在における分断状況、の3視点から中央アジア山岳高原部について地域研究をすすめる必要性を提起した。その上で、(1)山岳高原部から四通八達する交通路や生活域の歴史地理学的把握、(2)クルグズ人やパミール諸民族など住民における宗教文化の形成過程と現状の調査究明、(3)近現代史の解明、という3つの具体的アプローチにより研究をすすめる方針を述べた。

続いて宇山智彦・北海道大学スラブ研究センター教授が「ロシア語文献から見るパミール近代史:研究の歴史と論点」と題して研究報告した。宇山氏は(1)ロシアによるタジキスタンの征服・併合の経緯、(2)タジキスタン(特にパミール)に関する探検・調査・研究の歴史、(3)いくつかの論点(イスマーイール派。グレートゲームのなかでのパミール)、(4)資料収集・調査に関わる今後の課題、の4点について概観をおこない、共同研究を進める上での知識の共有をはかった。

3番目に稲葉穣・京都大学人文科学研究所・教授が「行歴僧のルートとパミール高原」の題で精緻な史料考証の成果を報告した。稲葉氏は8世紀半ばに入竺した悟空の往路上の地名を同定し、4世紀末から8世紀までの仏教僧侶がたどったルートを5つに整理した上で、アラブ・イスラーム軍が西から進出してくる状況下でのバダフシャーンやパミール等の山岳高原部における政治軍事状況を細やかに検討した。前近代における旅行者の行程を現地名と対照しながら同定していく研究作業は、本プロジェクトの歴史地理学的アプローチに大きく貢献するものである。

最後に澤田稔が「山岳バダフシャーン自治州西南部のムスリム聖地と関連施設」について、2009年に調査した成果を関連文献の記述をまじえながら紹介し、近年おこなわれている聖地保護と博物館建設の意味づけを試みた。