今回の海外派遣調査では、パレスチナ自治区全土(東エルサレム、西岸地区、ガザ地区)を対象とする社会調査を実施するため、カウンターパートとの準備折衝をすることが目的であった。
パレスチナ自治区に入る前にテルアビブ大学社会科学部の図書館で関連する社会調査の資料を閲覧した。訪問者はこの図書館の利用が初めてであったが、パスポートと入館料を支払うことで利用することができた。
カウンターパートは西岸地区ラマッラ市にオフィスを置くJerusalem Media and
Communication Center(以後JMCCと略記)である。日本からE-mailを送り、回答があったのがこの機関であった。Opinion
Poll事業の担当はMs. Manal Waradである。事前に送付しておいた質問票の内容について討議し、実施のコスト見積もりとタイムテーブルの作成が打ち合わせの内容である。データ分析レポートの作成係としてAAFAQコンサルタンツのLama
Jamjoum博士も打ち合わせに加わった。
質問票は青山弘之(研究統括者)、浜中新吾(研究分担者)、高岡豊(研究協力者)が日本で作成しておいたものである。質問票の文言や質問方法について現地の実査担当者としての立場からWarad氏、Jamjoum博士そして訪問者の間で議論が交わされた。両者からの質問はパレスチナ人の国際移動に関する文言や選択肢に集中した。パレスチナ人にとって自然な選択肢はどのようなものか、そして質問項目作成者の問題意識との折り合いをどのようにつけるのか、について2時間以上の議論が続いた。さらに政治的潮流(イデオロギー)に関しても、用意した質問票がシリア調査のものを基としているため、パレスチナの実情とは合致しないとの指摘を受けた。最終的にJMCCが議論の末にまとまった訂正案を作成し、訪問者に送付することが決定した。この訂正案は研究班で再び討議し、最終案としてJMCCに送付することになる。
引き続いて実施のコスト見積もりについての説明を受けた。見積もり案は訪問前にE-mailでもらっていたが、打ち合わせでは内容についてさらに詳細な説明を聞くことができた。タイムテーブルについては、JMCCが別件の調査を抱えていることから、2009年度上半期に実施可能だという説明を受けた。
今回の打ち合わせはパレスチナ自治区における社会調査の実施可能性を探る準備折衝の予定であったが、予想以上に折衝が進んだため、研究代表者の了解を得た上で翌日にJMCCと契約を締結した。なお打ち合わせの内容を受けて、東エルサレムの専門書店でパレスチナ人のイデオロギーやアイデンティティに関する研究書や統計局発行の資料を購入した。
JMCCは作業の遂行がスムーズでなおかつ予算面で魅力的なプランを提示してきた。今回の折衝によって、日本の研究プロジェクトによる初の本格的なパレスチナ社会調査が実施されることになるだろう。 |