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ジョン・ショーバーライン氏講演会報告 
佐々木紳(イスラーム地域研究東京大学拠点・特任研究員)

 概要
  • 日時:2010年7月2日(金)15:00-17:00
  • 会場:東京大学本郷キャンパス法文2号館2階第三会議室
    http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_01_02_j.html
  • 講演者:John Schoeberlein (Harvard University)
  • 講演題目:"Being Non-Post-Colonial in Central Asia: Recovering Non-Soviet Culture and Preserving Soviet Legacies"
  • 司会:小松久男(東京大学)
  • (通訳無し)
 報告
ハーバード大学のジョン・ショーバーライン氏は,おもに中央アジアをフィールドとする社会人類学の専門家である。今回の講演では,ソヴィエト連邦の消滅後に誕生した中央アジア諸国における「文化」の問題が取り上げられた。

氏によれば,独立後の中央アジア諸国では,一見したところ「ロシア化/ソ連化」された文化を払拭し,自らの「正しい文化」を「回復」するという「ポスト・コロニアル状況」が進展しているかのようである。だが実際には,「回復」された「正しい文化」に違和感を抱く人々も多く,むしろソ連時代を懐古する兆候さえあるという。

このような問題関心のもと,氏の報告は,インドやアルジェリアなど他地域のポスト・コロニアル状況と中央アジアのそれとの比較から始まり,中央アジアのポスト・コロニアル状況を「ロシア化」という現象に注目して分析を進め,中央アジアの諸地域間で「ロシア化」の浸透の度合いが異なることに注意を促す。

プロジェクターを用いた写真資料の解説では,中央アジアの人々の身体的特徴,市街地の看板文字,ティムールやマナスなど国民統合の「新たな」シンボル,さらには婚礼や披露宴の様子など,社会人類学者ならではのユニークな視点から「ロシア化/ソ連化」の痕跡を取り上げ,中央アジアのポスト・コロニアル状況を視覚的にも跡づけた。

以上の報告をもとにして,ショーバーライン氏を含む15名の参加者による質疑がおこなわれた。「ロシア化」の痕跡や「ポスト・コロニアル状況」については,アゼルバイジャン,グルジア,アルメニアなどおもにカフカース諸国との比較を視野に入れた専門的な討議がおこなわれた。また,氏が「ロシア化/ソ連化」という言葉で指し示す現象について,中央アジアの若い世代は「現代文化」の選択肢の一つとしてより柔軟に受け取っているのではないかという指摘もあった。

氏も報告の最後で指摘したように,これからソ連時代を知らない世代が増加するなかで,中央アジアの人々の文化とアイデンティティーの動態を継続して観察することが課題となろう。