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INTERNATIONAL CONFERENCE ON CENTRAL EURASIAN STUDIES: Past, Present and Future

 概要
  • 日時:2009年3月17日(9:30-18:00)・18日(9:30-19:00)
  • 場所:マルテペ大学マルマ・コングレ・ホテル会議場(トルコ共和国、イスタンブル)
  • 共催:マルテペ大学、イスラーム地域研究東京大学拠点、筑波大学
  • プログラム(ワードファイル)
 報告
今回の国際会議は、マルテペ大学にユーラシア研究所が開設されるのを記念して行われたものであり、マルテペ大学と、中央ユーラシア研究においてこれまで一定の成果を挙げてきた東京大学および筑波大学との共催の形で開催された。研究報告者だけでも77名に上り、単発の会議としてはかなり大規模なものとなった。これらの報告者の国籍は、共催機関のあるトルコと日本のほか、欧米やロシア、中央アジア各国、グルジア、インド、イスラエル、カタール等、多岐に及び、非常に国際色豊かな会議であった。開催場所となったマルテペ大学のホストぶりは特筆すべきもので、同時通訳ブースの配備、一日目のプログラムの後に行われたテュルク系諸民族による民族舞踊ショー、会議のための凝った装飾など、マルテペ大学の本会議への力の入れようが窺われた。


開会式においては、本会議の運営委員を務めたイスラーム地域研究東京大学拠点(TIAS)代表の小松久男教授が、「中央ユーラシア学への日本のアプローチ:過去と現在」と題する基調講演をトルコ語で行った。この講演においては、日本における戦前の、漢籍に基づいた中央アジア史研究から、主に中央アジアの諸言語で記された史料に基づく現代の研究への変遷が概観され、TIASの活動も紹介された。

基調講演ののちは、会議場を3つに分けてセッションが進行し、まず、政治学、歴史、考古学、社会学、国際関係学、宗教学、教育学等々、ディシプリン別のセッションが行われた。筆者が参加したもののなかから、個人的に特に興味深いと感じた報告を挙げるとすれば、EU参加を目指すトルコ共和国におけるユーラシア主義の広がりを論じたPinar Akcali氏による "Eurasianism in Turkey: Different Perspective and Challenges," キルギス南部の農村における、少女を対象にしたイスラーム布教活動の広がりを、フィールドワークに基づいて報告し、その地におけるムスリムを「名目的なムスリム」と断じたEliza Isabaeva氏による "Taalim" Lesson and Transgenerational Perceptions: Introduction to Islam or Social Event? (Reflections and Analyses of Islamic Spreading Strategies in Soughern Kyrgyzstan)"(報告後、「名目的なムスリム」という語をめぐって活発な議論がなされた)、16-19世紀の中央アジア、特にブハラとヤルカンドとの通商に関して、限られた史料を駆使して実証的に論じたGulchekhra Sulonova氏による "The Dynamics of Interrelations between Bukhara and Yarkand Khanates: Inter and External Factors"の3報告が挙げられる。

ディシプリン別のセッションののちには、地域別のセッションが続き、さらに、特別セッションとして、国際協力、ソ連初期における特定の人物に注目した研究、人々の記憶に基づいた研究等々、多様なテーマのもとにセッションが組まれた。これらのセッションにおいては、本会議の運営委員でもあったTIAS研究分担者のティムール・ダダバエフ筑波大学准教授が "Memory of the Soviet Migration Practices in Central Asia: Between Traditionalism and Cosmopolitanism in Kyrgyzstan and Uzbekistan" と題した報告を、また、TIAS研究分担者である筆者が "Russification of Muslim Elites and Russian Aristocratic Society in the 17th Century: An Analysis Based on the Genealogy of the Narbekov Family"と題する報告を行った。

これらの研究報告の終了後、TIASグループ1「中央ユーラシアのイスラームと政治」の研究成果でもある、キルギスにおけるソ連期に関するインタヴューをドキュメンタリー番組に編集した映像が、主会場において上映された。

本国際会議では、テーマを中央ユーラシア学とのみ定めてあったため、考古学から現代政治に至るまで多様な報告が行われ、この点で散漫な印象はあったものの、絶妙なプログラムの構成により、少なくとも筆者が参加した各セッションにおいては、討論の時間に活発な議論が行われ、報告についての理解が深まり、今後の研究の展望を垣間見ることができた。幅広い分野の研究者が一堂に会したことにより、日頃縁の薄い学問領域の報告を聞き、多様な研究者と新たに知り合いになることができるというメリットもあった。また、本会議においては、共催に東京大学と筑波大学が入っていること、また、上記のTIAS関係者のほか、筑波大学と早稲田大学から各1名ずつの日本人が報告をおこなったことにより、中央ユーラシア学における日本のプレゼンスを十分に示すことができたといってよいだろう。

なお、マルテペ大学によれば、本会議のプロシーディングスが遠からず出版予定とのことである。

(文責 濱本真実)