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ロシア科学アカデミー民族学・人類学研究所『人種と民族』32号(2006年)・中央アジアのイスラーム特集

 紹介

ロシア科学アカデミー民族学・人類学研究所が発行している年刊の紀要『人種と民族』の32号(2006年)は、中央アジアのイスラームに関する充実した特集号となっている。この号は、ロシアにおける中央アジア研究をリードするS. Abashin, B.Bushkov両氏の編集にかかり、下記の目次のとおり、3部構成となっている。

「中央アジアのイスラーム:社会・政治・対立」と題された第1部は、昨年9月の第2回中央ユーラシア研究会で報告されたS.Peyrouse氏の報告と同名の論文から始まり、ソ連解体後の現代イスラームの動向に関する論考を収めている。中でも興味深いのは、2005年5月のアンディジャン事件で注目を集めたイスラーム復興主義組織アクラミーヤに関するウズベキスタンの研究者、B.Babadzahnov氏の論文である。ここには、アクラミーヤの指導者、アクラム・ヨルダショフの著作のロシア語訳が詳細な解説とともに収められている。彼の主著Iymonga Yo'lは、これまでにインターネットなどでも紹介されていたが、それは改編や削除が加えられたバージョンであるという。今回Babadzahnov氏が紹介するオリジナル版は、ジハードを想定した急進性にあり、とりわけ、ヨルダショフが事件直前の3月に獄中で記したクルアーン61章「戦列」の注釈は、その戦闘性において際だっている。当初穏健な宗教セクトと見なされていたアクラミーヤが急進化したとすれば、その要因はどこにあるのかをはじめとして、この論文はいまだに不明の点の多いアンディジャン事件、さらには現代中央アジアのイスラーム復興主義を考える上できわめて刺激に富んでいる。

第2部は、現代中央アジアにおけるイスラーム以外の宗教の動向を扱い、第3部では、帝政ロシア時代とソ連初期のカザフ草原とトルキスタンにおけるイスラームと政治の相互関係が具体的なロシア語史料をふまえて考察されている。とくに最後の2章には、「1914年10月のトルキスタン地方ムスリム住民の気運」と「中央アジアのムスリム聖職者」といういずれも治安当局の興味深い報告書が全文掲載されている。それにしても、これらの史料紹介をてがけたD.Arapov氏をはじめとして、最近のロシアにおける中央ユーラシアのイスラームに関する研究の進展は目を見はるばかりである。

小松久男

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