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『中央アジアのイスラーム聖地−フェルガナ盆地とカシュガル地方』
『新疆およびフェルガナのマザール文書(影印)I』

 紹介

最近の日本における中央アジア史研究の新しい潮流の一つとしてマザールに関する総合的な研究を挙げることができる。イスラームの預言者や聖者、歴史上の人物に帰されるマザールは、人々がさまざまな願をかけに参詣する場として、中央アジアでも歴史を通して広く知られている。それは廟の形態をとることもあれば、自然の大樹や奇岩、泉、洞穴など、あるいはこれらの複合体など、多様な相貌を見せている。そこには人々の記憶や伝承が宿るとともに、マザールとその管理者とを中心にして規模はさまざまの社会経済的な関係が築かれることもあった。ソ連時代の中央アジアでは、マザールは公式には閉鎖もしくは破壊されるべきものだったが、これを望まない住民の保護やソビエト官僚制の空隙によって生き残ったマザールも少なくない。ただ、これらのマザールを実際に調査することが可能になったのはソ連解体後のことであり、こうした調査、とりわけ現地の研究者との共同研究の成果が最近になって続々と刊行されている。ここでは、そのうち下記の2点を紹介しておきたい。
  • 『中央アジアのイスラーム聖地:フェルガナ盆地とカシュガル地方』『シルクロード学研究』28号(シルクロード学研究センター研究紀要)、2007年、200頁
これは、2004-2005年に中央アジアで行ったマザール調査の報告書であり、メンバーは真夏の炎天下に旧ソ連内のフェルガナ地方で135カ所、東に隣接する中国新疆で25カ所のマザールを訪問、調査したという。全体としてマザール研究の可能性を明示する質の高い報告書であり、巻末にはマザール・リスト(その多くには緯度・経度・高度も表示されている)、参考文献、豊富な写真、そして索引が付されている。(本書の目次は下記を参照のこと)

これに関連して、次の新刊書も注目に値する。
  • 菅原純・河原弥生『新疆およびフェルガナのマザール文書(影印)I』東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 Studia Culturae Islamicae No.83, 2006年、154頁
これは、中央アジアのマザールに関連して民間に残されてる多様な文書に注目して行われた研究の成果であり、未公刊文書の写真版を提供している。新疆からは、コムル市に所在するアズィズィム・アガチャム廟文書(4点)とコムルのマザール案内書、フェルガナ地方からは、ウズベキスタンのアンディジャン州に所在する、中央アジアを征服したアラブ・ムスリム軍の指揮官として名高いクタイバ・イブン・ムスリム廟と同じくフェルガナ州に所在するカラ・ヤズィ・バーバー廟に関連する文書のファクシミリが収められ、これに日本語のほか、英語、ウズベク語、ウイグル語の四つの言語による解題がついている。このような現地の研究者をはじめとして世界の学界に新発見史料を紹介しようとする編者の意気込みは、高く評価されるべきだろう。

小松久男

 『中央アジアのイスラーム聖地:フェルガナ盆地とカシュガル地方』の目次

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