NIHU Program: Islamic Area Studies, IAS Center at the Univesity ofTokyo(TIAS)
GROUP 2

 STRUCTURAUL CHANGE IN MIDDLE EAST POLITICS

          
 東京大学拠点イスラーム地域研究 グループ2

中東政治の構造変容
グループの紹介
TIASグループ2メンバー

(代表者)長沢 栄治(東洋文化研究所教授・センター流動教員)

(分担者)
臼杵  陽(日本女子大学文学部教授・センター客員教員)

大稔 哲也(大学院人文社会系研究科准教授・センター流動教員)

松本  弘(大東文化大学国際関係学部准教授)

池田 美佐子(名古屋商科大学外国語学部教授)

間 寧 (アジア経済研究所地域研究センター中東研究グループ長)

菅瀬 晶子(総合研究大学院大学葉山高等研究センター研究員)

SalimTamari Director,the Institute of Jerusalem Studies




研究計画(2006-11年)
  中東地域に安定した公正な政治秩序が形成されることは地域の人たちはもちろん世界全体の願いである。しかし、その道筋を見通すことは難しい。本研究グループは、中東政治の複雑な動態を考察するために、パレスチナ問題が代表する地域全体の安定に関わる問題、民主化のような地域各国の体制変革に関わる問題、そして以上の広域的、国家的レベルのはるか下方にあって政治変動の底流を形作る基層社会の変容の問題といった、中東政治の重層的な構造を総合的に把握することを目指す。その場合、以上のいずれの層においても重要な働きを示す現代イスラームの多様な形態を分析することは不可欠な作業であるが、こうした地域の特殊性の考察とともに、中央ユーラシアを含め、他地域の事例と比較研究を可能にする理論的な枠組みを提示することもまた現在、地域研究者に求められている。また、これまで日本の中東政治研究は、個々の研究者のレベルにおいて研究情報の蓄積が行われる一方、基礎的な研究資料・情報を組織的集中的に収集し、意見交換し、その成果を発信する研究・情報センターを欠く状態が続いていた。本研究グループは、その欠を埋めるために上記の研究課題を中心にした研究情報の組織化を試みることも主要な課題にしている。

  1. パレスチナ問題の総合的研究:研究情報の収集と発信
パレスチナ問題は、日本国内において多くの研究者の関心を集めながら、これまで本格的な組織的研究が行われてこなかった。このような状況を打開するためには、日本におけるパレスチナ研究を推進する組織的な基盤を構築することがまず必要である。そのために当面の課題として、まず以下の基礎的な資料調査研究を行う。第一に、ハマースに代表されるパレスチナのイスラーム運動に関する研究動向の整理や、オスロ合意後の自治政府体制下のメディア状況と統計資料の調査収集などを中心にして、現在進行中の政治変動を考察するための基礎的な研究を行う。第二に、イスラエル建国前のオスマン帝国期のイスラーム法廷文書・ワクフ文書の資料状況の調査など基礎的な歴史資料研究を行う。第三として、離散パレスチナ社会におけるアイデンティティの問題を難民問題という比較の視点から考察する。
次に上記の課題を中心にして、パレスチナに関する研究情報を収集・整理・提供し、また日本のパレスチナ研究の現状を対外的に発信する「パレスチナ研究センター」(仮称)ウェブサイトを構築する。これらの調査と研究情報の組織化は、国内のパレスチナ研究者の参加を呼びかけるとともに、現地の研究機関(The Institute of Jerusalem Studiesなど)との連携を通じて推進する。

  2. 中東の民主化と政治改革の展望:実態分析と理論的考察
民主化問題は中東政治研究で近年もっとも注目されるテーマであり、これまでも国内ではいくつかの研究プロジェクトが推進され、その成果を上げてきた。本研究グループはこれらの成果を踏まえて、研究情報の組織化と政治学的研究の深化を計るために、以下のような段階で研究活動を推進する。第一段階の基礎的な作業として、中東各国の民主化と政治改革に関わる制度と運用の実態(政体・民主化過程・議会制度・選挙・政治団体・イスラーム政党など)に関して、中東各国に関する専門家の共同作業を通じ、基礎的な情報を集積・整理し、検討する。その作業結果はウェブサイトで公開する。第二段階として、民主化理論の中東政治への適用可能性と新たな分析枠組みの構築を目指して、比較政治学の研究者や他地域の専門研究者との理論的比較研究を行う。拠点2の上智大学の民衆運動研究グループなどとの連携も視野に入れて共同研究を推進する。

  3. 中東における基層社会の変容:伝統と革新の中東社会史
 めまぐるしく変転する中東政治のはるか下方には、それらを根本において規定する基層社会の底流が織りなす社会史研究の世界が広がっている。こうした社会の深層部における静かな流れは、華々しい政治的事件と連動する形で浮上して見えることもあるが、多くの場合、視野の外に置かれがちであった。このような基層社会の変容を考察するためには、たとえば急激な経済のグローバル化の波にさらされている民衆の日々の営みに洞察をめぐらす一方で、衛星テレビなどのメディア革命に敏感に反応する大衆文化の新たな展開を調査分析することも必要である。また、こうしたフィールドワークや現状分析的な情報調査と連動して行う必要があるのは、中東社会史研究の立脚点となる人々の顔が見える、生きた史料を用いた研究方法の確立であろう。以上の問題意識から、当面下記の課題を中心に共同研究を組織する。

 (1)中東社会史の基礎研究:多用な資料を用いた、前近代と近現代とを結ぶ中東社会史の実証的な研究を重ねる。
 (2)伝統的諸産業の実像と変容:グローバル化の波の中で失われつつある職人の技能の記録保存とともに、今日的な都市労働問題や伝統的な社会組織との関連を分析する。