2007年度第TIAS、グループ2全体研究会
  
 
日時: 2007年7月23日(月) 10:00〜17:00
  場所: 山形大学、3号館東京大学法文1号館
  報告者・報告題目:  中東民主化研究班
           澤江史子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、非常勤研究員)
           「トルコ民主化の行方」

            中東社会史班
           高橋圭(人間文化研究機構/上智大学)
           「20世紀初頭エジプトにおけるワクフ行政ー廟、ザーウィヤ、テッケの管理を
           巡る問題から」

            パレスチナ研究班
           高岩伸任(一橋大学大学院博士課程)
           「20世紀におけるパレスチナのワクフ制度概観

           


 
(1)澤江史子 「トルコ民主化の行方」

「中東民主化研究班」は、澤江史子氏による研究報告「トルコ民主化の行方」と行った。内容
は報告前日の7月22日に実施された総選挙から、その選挙実施に至った政治情勢を分析
し、さらにそこから看取される民主化の定着に関わる特質を考察・評価するものであった。こ
の総選挙は、イスラーム政党である「公正と発展党」からの大統領選出の是非を問う問題か
ら前倒しされたものであり、選挙速報を用いてトルコにおけるイスラーム政党の位置付けが
解説された。また、民主化評論ではラテンアメリカの諸事例との比較やハンチントン、ダイヤ
モンド、ラストウの諸理論から、トルコにおいて民主化が定着しつつある状況が論じられたが、
同時に軍部やクルド人、EU加盟などの諸問題に関わるその障害も指摘された。
(文責;松本弘)


 (2)高橋圭 「20世紀初頭エジプトにおけるワクフ行政ー廟、ザーウィヤ、テッケの
       管理を巡る問題から」

発表者は近代エジプトのタリーカ研究の立場から、20世紀初頭のエジプトにおいて、タリー
カの活動拠点・経済基盤であった廟・ザーウィヤ・テッケといった宗教施設とそれを支えるワ
クフがどのような状況に置かれ、またタリーカのメンバーたちがそうした状況にどのように対
応したのかについて発表を行った。一般に19世紀以降エジプトのタリーカはバクリー家シャ
イフ(後にはスーフィー評議会)を頂点とする制度の下で国家管理が進められたことがよく知
られている。しかし発表者は、19世紀末以降ワクフ省(庁)が宗教施設への干渉を強め、そ
の結果いくつかのタリーカにおいてシャイフのワクフ収入が減少する状況や、活動の基盤と
していた施設の管理権が失われるといった事態が生じていたことを明らかににした。
一方、ワクフ省(庁)の干渉によって窮地に陥ったタリーカのメンバーはしばしば国王に助け
を求め、国王もそれに応えた。国王によるタリーカ支援はインフォーマルなものであり行政
システムの外側からなされたが、実際の支援はワクフ省(庁)を通して行われていた。つまり
ワクフ省(庁)は基本的にはタリーカのワクフを管理する行政機関として機能していたが、同
時に国王によるタリーカ支援の窓口としての役割も担っていたと結論付けた。
参加者からは、発表者が近代エジプトのワクフ研究として依拠したベアーの研究の問題点、
トルコにおける対タリーカ政策との類似点、同時期のコプトに対する政策との比較の視点な
どについて質問やコメントがなされた。
(文責;高橋圭)


 (3)高岩伸任  「20世紀におけるパレスチナのワクフ制度概観

 パレスチナ班の高岩伸任さんによる「20世紀におけるパレスチナのワクフ制度概観」の
発表があった。発表者はワクフ管財のエジプトとの比較に関心を持ち、パレスチナにおける
ワク制度を歴史横断的に、政治的変遷に従った欧文文献の成果を研究史としてまとめた。
様々な政治体制の下、ワクフ制度、特にワクフ地をめぐった土地接収やワクフ運営援助など
の実態を紹介し、ワクフが統治の道具として利用されてきた経緯を紹介した。発表者自身か
らワクフを信託化された住民の対応やハマースによるパレスチナのワクフ地宣言への課題
が提示され、後者に関してはハマースが「パレスチナ=ワクフ地」とする根拠はどこからひい
ているのかなど関心が集まった。
(文責;田村幸恵)

                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
GROUP2
  Structural Change in Middle East Politics