「パレスチナ研究班」第5回研究会

JCAS次世代ワークショップ「イスラエル/パレスチナ地域をめぐる総合知の育成 ―次世代研究者による知の蓄積と発信に向けて―」第二回準備研究会(共催:地域研究コンソーシアム(次世代支援プログラム)、京都大学イスラーム地域研究センター(人間文化研究機構(NIHU)プログラム「イスラーム地域研究」京都大学拠点)

日時:20101223() 13:0017:00  

場所:東京大学東洋文化研究所会議室

報告者・報告題目:

田浪亜央江(成蹊大学非常勤講師)

「「中東和平」とイスラエルのアラブ系政党における承認/不承認の政治学」

飛奈裕美日本学術振興会特別研究員PD、京都大学人間・環境学研究科

「オスロ和平プロセスとエルサレム問題―

空間と人口のコントロールをめぐるポリティクス」

概要:

田浪は本報告で、イスラエルにおけるアラブ政党の政治理念からイスラエル国家に対する態度をケース・スタディとして抽出し、イスラエルのアラブ人のユダヤ国家に対する承認/不承認が中東和平といかなる関連をもつのかを検討した。イスラエルのアラブ政党としては長年ユダヤ人との共存を前提としたイスラエル共産党がアラブ人の民族的権利を代弁する役割を果たしてきたが、オスロ合意後に成長したのは、むしろユダヤ人との共存を掲げず、ユダヤ国家不承認を(明示化せずとも)織り込んだ、イスラーム運動やタジャンモウ(民族民主連合)だった。後者はイスラエルの公認政党でありながら実質的にはシオニズムを否定する理念を正面から掲げてきたものの、設立者アズミー・ビシャーラが去って以来求心力を弱め、ユダヤ国家を容認するかのような姿勢を見せ始めている。イスラエル国家を承認するかしないかという政党の存在理由にもかかわる大問題は、現実政治のなかで抽象化し、言葉の上で操作可能なイデオロギーとなっている。質疑では、シオニスト政党へのアラブ人の投票率が高まっているなか、アラブ政党の理念や動向だけを対象としてもイスラエルのアラブ人の政治的な立場はクリアにならないのではないか、といった指摘や、タジャンモウの政治理念の変化の背景が不明であり説得力がないとの指摘がなされた。今後の検討課題としたい。

飛奈は、イスラエル/パレスチナ紛争の中でもとりわけエルサレム問題に注目し、1967年にイスラエルが「併合」した(しかし国際社会は占領地の一部であるとの立場をとっている)東エルサレムにおいて、パレスチナ人の土地の収用・ユダヤ人入植地の建設・特定の都市景観の形成を可能にしてきたイスラエルの国内法制度を明らかにするとともに、被占領者であるパレスチナ人が占領者であるイスラエルの国内法制度を用いながら自らの土地と生活空間を守ろうとしてきたプロセスを議論した。従来、エルサレム問題に関する議論は、ユダヤ教・キリスト教・イスラームという三つの一神教の聖地として、あるいは、ユダヤ人・パレスチナ人のナショナリズムにおいてシンボリックな意味を賦与された場所として、研究者自身が過剰な意味づけを行ってしまう傾向があったが、本研究は、以上のような象徴的意味が付与された場所であることを前提にしつつも、人間が日常生活を営む空間としてエルサレムを捉えなおし、その空間のあり方を強制的に変更するものであるイスラエルの占領政策が具体的にいかなるプロセスで施行され、生活者であるパレスチナ人がどのように対応してきたのかを明らかにすることを目指した。 質疑応答では、イスラエルの国内法とその適用の詳細に関する質問や、法律の適用のあり方の変遷と時の政権の性格や国際政治の動向などを結びつけることによってより深い議論が可能になるという指摘がなされ、また、東エルサレムにおけるイスラエルの支配の正統性を承認しない立場をとってきたパレスチナ人がイスラエルの国内法制度を利用することによって抵抗を行なっていることをどのように理解すべきかについての議論が行われた。

 

                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
GROUP2
  Structural Change in Middle East Politics