日時:2010412日(月)18時~20

場所:東京大学東洋文化研究所 第一会議室

講演者:ヤコブ・ラブキン教授(Dr. Yakov Rabkin)(モントリオール大教授)

講演タイトル“Metamorphosis of International Attitudes to Israel

(国際社会によるイスラエルへの態度の変容)”

本講演ではヤコブ・ラブキン教授はイスラエルに対する国際社会の姿勢がどのように変更したかを分析した。ラブキン教授はこの変容を思想的志向という視点と国際関係という視点で分類し、説明した。

前者において、かれはイスラエルの支持勢力が左派勢力から右派勢力(場合によって極右)に変容しているという。第2次世界大戦中のユダヤ人の大虐殺に加えて、イスラエル国家の社会主義的政策も重なって、イスラエル建国からしばらく国際社会においてイスラエルを支持していたのは左派勢力であった。しかし経済政策の大転換とイスラエル経済の資本主義化という要因と1967年以降の西岸・ガザの占領などによって国際世論におけるイスラエルのイメージを大きくかわることになり、左派勢力はイスラエルに対する批判的な立場を取る反面、米国の「キリスト教シオニスト」に代表されるように右派勢力が徐々にイスラエル支持の主役となる。

後者に関して、ラブキン氏は南アフリカや「非同盟諸国会議」および米国との関係に生じた大きな変容を取り上げた。イスラエルは1950年代「非同盟諸国会議」のメンバーになろうとし、1960年代初期に南アフリカの人種差別政策を糾弾する国連決議にも賛成した。しかしその後イスラエルと非同盟諸国会議と関係が決裂し、変わりにイスラエルは南アフリカと強力な関係を築くことになる。また1960年代以降、米国との特別な関係を構築することも変容の一つである。

イスラエルに対する国際社会の姿勢において1967年の西岸・ガザの占領がひとつの分岐点とされているが、ラブキン教授はこの変容をイスラエルの国家建設の理念に求めることもできると主張している。それはイスラエルは「民族国家」をつくろうとしたことが、実は「民族優越主義」(ethnic supremecy)という理念の土壌をつくったからである。現在、パレスチナ人や周辺諸国との共存を困難にさせているのは「民族優越主義」によるアラブ人およびイスラームに対する軽蔑・差別意識である。

教授は今日のイスラエルが直面している最も深刻な問題は「ユダヤ人国家」としての正統性が問われていることであると説く。これは特にイスラエルの外に住んでいるユダヤ人の姿勢の変更によくみられ、例えばゴルドスミット・レポートに代表されるように多くのユダヤ人はイスラエルの行動を非難しているようになっている。

ラブキン教授は「正統性のジレンマ」を含む理念的や国際関係上の問題を解決する方法としてイスラエルを「多民族国家」「多文化国家」に再構築する方法しかないと力説する。

講演後に「二国間解決」、「カナダ政府の対イスラエル政策」、「ロシア系イスラエル人の政治的姿勢」、「イスラエル国内における平和運動の現状」、「イスラエルにおける極右政党の現状」などに関して質疑応答が行われた。

(文責:ケイワン・アブドリ)

                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
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  Structural Change in Middle East Politics