「パレスチナ研究班」第6回研究会

日時:2010221日(日) 13:0017:00  

場所:東京大学東洋文化研究所会議室

報告者・報告題目:

錦田愛子(早稲田大学イスラーム地域研究機構研究助手)「ヨルダンの国籍付与政策とガザ難民――パレスチナ難民の高等教育をめぐる現状と課題――

    飛奈裕美(京都大学アジア・アフリカ地域研究科博士後期課程)「Meron Benvenisti(エルサレム市元助役)研究紹介」

   最初の報告は、ヨルダン・ハーシム王国在住のパレスチナ人のうち、例外的に国籍を付与されていないガザ難民に注目して、ヨルダン政府による対パレスチナ政策、国籍付与政策、また中東における国籍・市民権概念について検討を加えたものである。またその中でも社会的差別として大きな影響力をもつ教育という側面に焦点を当て、現地調査の結果に基づく現状分析をおこなった。報告者はまず、在ヨルダンのパレスチナ人について、異動の時期に基づき分類・整理を行ったうえで、それぞれのおかれた法的地位が異なる点を指摘した。次にそうした枠組みの中でガザ難民の位置づけを示し、彼らが享受している人権の範囲を政治的、経済的、社会的側面に分けて明らかにした。続いてガザ難民が集住するジャラシュ難民キャンプを事例としてとりあげ、そこでUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)がおこなった調査結果に基づき、人々の生活状況や教育をめぐる困難な状況について説明をこころみた。これらの内容を踏まえ、質疑では、ガザ難民の存在がヨルダン国内でどの程度知られているのか、ガザ難民とムスリム同胞団やハマースとのつながり、UNRWA登録をめぐり経済的な条件は関係ないのか、といった点について質問が出た。また1980年代半ばに日本外務省が難民支援の柱として、ガザ難民についての調査をおこなっていたというコメントなど、今後の研究の展開に有益な論点・参照点の指摘が行われた。
                              (錦田愛子)

本発表では、201031216日に来日する元エルサレム市助役のメロン・ベンヴェニスティ氏の著作を元に、彼の経歴や思想を紹介した。1934年にサブラ(イスラエル生まれのユダヤ人)第1世代として生まれたメロン氏は、イスラエル建国者のひとりであり地理学者としてヘブライ語の地図や教科書を作成した父親の影響を強く受けて成長した。197179年にエルサレム市の助役を務め、その後、ハーバード大学で政治学の博士号を修めた。1980年代以降、「西岸地区データ・プロジェクト」を主導し、イスラエル紙ハアレツのコラムニストとして活動した。

 メロン氏の思想は、サブラとしてのアイデンティティと父親の仕事の影響を大きく受けている。メロン氏は、パレスチナ/イスラエル紛争を、同じ土地をホームランドとしてその排他的な支配を求めて争う親密な敵同士である2つのコミュニティ間の紛争と定義している。彼は、イスラエルの左派は地理的境界線を引くことによってパレスチナ人とユダヤ人を分離することを目指し、右派は圧倒的な力でパレスチナ人を抑圧あるいは追放することによってパレスチナ/イスラエルの地の支配を目指していると議論したうえで、自身は、左派とも右派とも距離をとり、パレスチナ/イスラエルの地における2つのコミュニティの共存を目指すべきとする立場をとっている(二民族一国家案)。

 質疑応答では、(1)イェシーヴァ教師・イスラエル建国過程で重要な役割を果たした地理学者・シオニストである父親の思想的影響、(2)二民族一国家案の実現に向けた具体案の有無、(3)イスラエル国内のパレスチナ人の問題解決に関して、「存在する不在者」の由来と実態、(4)メロン氏がエルサレム市助役に選任された経緯や彼の思想とエルサレム市政の関係、について議論が行われた。

                                                (飛奈裕美)

                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
GROUP2
  Structural Change in Middle East Politics