2009年度第8回研究会:
 「パレスチナ研究班」第4回研究会
 

  日時: 2010年1月9日(度),13:00時から17:30時
 場所: 東京大学 東洋文化研究所 大会議室
 報告者・報告題目: 清水雅子 (上智大学)
      「パレスチナ政治の動態とハマースの政治参加」

          武田祥英  (千葉大学)
      「第一次大戦期のイギリス政府におけるパレスチナ政策の検討」

報告者①清水雅子氏(上智大学) 100分-310
      「パレスチナ政治の動態とハマースの政治参加:カイロ宣言締結のロジックとメカニズム」

 

本報告では、オスロ合意に反対の立場を取ってきたハマースが、なぜ合意に基づいて設立されたパレスチナ自治政府(PA)に正式に参加したかを説明することで、「ハマースの全体的なビジョンの中で政治参加はどのような位置づけであり、いかなるロジックで成立しているのか」という前回の研究会の議論での最後の問いに対しアプローチすることを目指した。20061月の立法評議会(PLC)選挙は、反対派の参加による競争的選挙の成立に特徴づけられるとした上で、ハマースの選挙への参加が決定した「カイロ宣言」に着目し、その締結に至る交渉過程(「カイロ対話」)をPA在任者と反対派(ハマース)による交渉ととらえて分析を加えることとした。

 第1部では、PA設立以降のパレスチナ政治の動態、カイロ宣言に至る政治過程、宣言の内容を概観し、分析を加えた。つづく第2部では、ハマースにとっての政治参加の位置づけ、不参加であった第1PLC選挙の際の内部の争点、その文脈でのカイロ宣言の意義について分析を加えた。第3部では、PA設立と国家・社会関係の創出、国家に平行したハマースの社会事業と正統性の獲得、アクサー・インティファーダのダイナミクスに焦点を当て、PA在任者とハマースの間のパワー・バランスの変化が、いかに交渉の開始と帰結を導いたかを分析した。最後に、ハマースは、PA設立以降のパレスチナ政治の動態の中でPA在任者とのパワー・バランスが変化したことで開始された対等な交渉の中で、ハマースの論理と一貫し、運動の分裂につながらない有利な合意を結ぶことができPLC選挙に参加したと結論づけた。また、パレスチナ内部のダイナミクスの重要性を指摘した。

 質疑応答では、選挙への参加を選んだことにより政治部門以外のハマース内部でいかなる影響があったか、国家を持たないにもかかわらず「パレスチナ政治」なるものは存在しうるのか、といった点に関して問題提議がなされ、個人と組織の政治参加、ファタハ・ハマース関係でなくPA・ハマース関係として分析することの妥当性、それらを議論する際の前提を提示する必要性、方法論的問題に関して指摘がなされた。
                         (文責:清水雅子)

 報告者②武田祥英氏(千葉大学) 320分-530
「第一次大戦期のイギリス政府における対パレスチナ政策の検討(仮題)」

 

 

この発表では、”Jew”を集団概念として捉えるシステムが構築されたプロセスを検証した。大戦期の英国では、苛烈な排外主義による反ユダヤ主義の高揚があった。英国において大きな影響力を行使していた”Anglo-Jewish Association”(以下AJA)の指導者たちは、差別的に”Jew”と呼ばれた人々-英国人やロシア・東欧系の移民-を団結させることで、”Jew”の英国への忠誠心を示し、差別に対抗しようと考え始めた。この際彼らは、内務省の監督の下、長年嫌悪し続けたシオニストと協力体制を構築することすら厭わなかったのである。しかし長年指導的な役割を果たしてきたAJAが、差別的状況への応答として”Jew”の団結を喧伝したことによって、皮肉なことに、人々の多様な在り方は排除されて”Jew”という概念に包摂されてしまった。集団概念としての”Jew”AJAが長年反対し続けてきたもの-の創出は、AJAの存在無しには英国では成立しえなかったと考えられる。

 質疑において、当時のユダヤ人口はロシア帝国、東欧に集中しており、英国やアメリカの既存のユダヤ人から見ればこれらの全く異質で貧しいユダヤ人たちが、大挙として自分達の国にくるかもしれないということこそが脅威であるはずで、この点をどう議論に組み込むのか、とご指摘いただいた。今回の発表では抜けてしまっていた所であり、今後の検証に反映していきたいと思う。

                         (文責:武田祥英



                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
GROUP2
  Structural Change in Middle East Politics