2008年度第1回研究会:
 「中東民主化研究班」第1回研究会
 

  日時: 2008年7月5日(土)
  場所: 東京大学東洋文化研究所会議室
  報告者・報告題目:  吉岡明子(日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究員)

  

昨年度実施した海外調査の成果を踏まえて、現在のイラク情勢と民主化の展望について報告した。現在の政治情勢は、イラク人の間では立場によって見方が大きく異なるが、占領軍と共にイラクに戻ってきた亡命政治家に対する痛烈な非難から、経済制裁解除に伴う経済状況好転に対する歓迎といった様々な声がある。しかし、全体的に汚職の蔓延とそれに伴う組織犯罪の増加が増えているとの指摘が多い。治安問題は反米武装闘争、イスラーム過激派の活動、宗派間抗争などの枠組みで捉えられがちであるが、政治家や政党が保有する民兵などによる汚職に根ざした組織犯罪(密輸、麻薬等)が蔓延し、そうした組織犯罪への協力を拒む市民が殺害されるというケースが増えており、法と秩序の崩壊の結果である。今後の動向について研究者の間では、政府が非常に弱く適切に機能していないという状況に対して打開策は少ないが、一方で政府の完全な崩壊に至るような兆しも少なく、不安定な状況が続くのではないかという見通しが多かった。戦後の政治プロセスを「民主化の試み」として肯定的に捉えた場合でも、その定着には長い時間がかかることは避けられない、という意見も一致していた。 

(吉岡明子、長澤栄治)



                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
GROUP2
  Structural Change in Middle East Politics