2007年度第6回研究会:「中東社会史研究班」第4回研究会
  
 
日時: 2007年7月28日(土) 14:00~17:30
  場所: 東京大学法文1号館
  報告者・報告題目:  鳥山純子 (お茶の水女子大学博士後期課程、日本学術振興会特別研究員)
            「現代カイロ女性の「身体観」変容と化粧品消費ー真正性表象の場から自己表現の場へー」
            (Make-up as a self expression: The impact of consumer culture on the
            image of authentic "female body" in contemporary Cairo)
           後藤絵美(東京大学大学院博士課程、日本学術振興会特別研究員)
           「「ヘガーブ・モーダ」の誕生ー現代エジプトにおけるヴェールの流行と宗教言説の変容ー」


1. 鳥山純子 (お茶の水女子大学博士後期課程、日本学術振興会特別研究員)

現代カイロ女性の「身体観」変容と化粧品消費――真正性表象の場から自己表現の場へ――」

Make-up as a self expression: The impact of consumer culture on the image of authentic female body in contemporary Cairo

 本発表の目的は、先行研究を検討するなかから、現代カイロにおける女性の化粧という行為を考察・記述するための理論的方法を模索することにある。近年の産業的成長を受け、エジプトの化粧品産業に関しては多くの考察が行われているが、化粧を実際に行っている人々やその行為を対象とした研究は依然数が限られている。そんな中、現代のカイロやチュニスにおける女性の化粧を民族誌的に記述した論考からは1)化粧という行為とそこで行われる意味づけの多様性の捨象、2)欧米的価値観の普及の自明視という問題点をみてとることができる。これらを回避しながら化粧という行為を考察・記述するためにはどういう方法があるのだろうか。一つの可能性として、本発表ではボードリヤール以降の「消費論」、なかでもアパデュライ(1996)がグローバル化世界の消費考察に関して提唱した「歴史」と「系譜」という概念を検討した。

2. 後藤絵美(東京大学大学院博士課程、日本学術振興会特別研究員)

「「ヘガーブ・モーダ」の誕生——現代エジプトにおけるヴェールの流行と宗教言説の変容——」

 エジプト方言でヒジャーブ(ある種の宗教思想に基づいて着用する衣服や覆い布)のことを「ヘガーブ」とよぶ。「モーダ」とはイタリア語起源の単語で「流行の、普及している習俗」という意味合いをもつ。本発表は、2000年代のエジプト社会に見られる「流行のヒジャーブ」現象に注目し、それが誕生した背景の一つとして、宗教言説の変容があった可能性を指摘したものである。

 大学生を中心にヒジャーブがまとわれるようになった1970年代以来、頭布の巻き方を工夫し、慎重に衣服を選ぶ女性たちはつねに存在した。80年代から90年代には著名な女優やベリーダンサーらがそれぞれの個性を生かした方法でヒジャーブをまとい始めた。しかし、ヒジャーブがファッションの一形態として量産され、雑誌やファッションショー、テレビ番組で宣伝され、専門店や各種販売店の店頭を飾り、「流行」するようになったのは、2000年代に入ってからのことである。

 こうしたヒジャーブの流行が始まった背景の一つとして、発表者はエジプトで若者やエリート層の間で高い人気を誇る説教師アムル・ハーリド(1967-)の説教『ヒジャーブ』に注目する。2000年、カイロ市内のモスクで行われた本説教は録音され、カセットテープやCD、あるいは電子ファイル等のメディアを通じて広く普及した。本説教やその他の機会にハーリドが言った言葉をきっかけにヒジャーブをまとい始めた女性は少なくないといわれる。

 本発表では、(1)女性がヒジャーブをまとうべき理由、(2)誰が女性にヒジャーブをまとわせるか、(3)まとうべきヒジャーブの条件は何か、という三点について、アムル・ハーリドによる説教『ヒジャーブ』とその他四人のエジプト人説教師による同主題の説教を比較した。そこで、前者と後者では、(1) ヒジャーブをまとうべき理由が「フィトナを防ぐため」から「神に対するハヤーのため」へと、(2) まとわせる主体が男性から女性へと、それぞれ重心が移行していることを明らかにした。また、四人の説教師が (3) ヒジャーブの条件として八つの事項に言及しているのに対し、ハーリドはそのうちの五項目のみを条件として挙げ、その上、「あなたがこの条件に適うと思うものを着ればいい」、「(モーダがいいというなら)モーダなヒジャーブを探せばいい」と発言していることを指摘した。ここから、女性たちがある程度自由にヒジャーブの形や色、まとい方を選びうる土台を、ハーリドは宗教言説という形で提供したと論じた。


                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
GROUP2
  Structural Change in Middle East Politics