2007年度第2回研究会:「中東社会史研究班」第1回研究会
  
 
日時: 2007年4月28日(土) 14:00〜17:30
  場所: 東京大学法文1号館
  報告者・報告題目:  竹村和朗(カイロ・アメリカン大学大学院)
            「中東社会史の一側面としての砂漠開発:エジプトの状況について」
            大稔哲也(東京大学大学院人文社会系研究科助教授)
            「オールド・カイロの諸産業-屠畜・
皮鞣・ゴミ回収などの現況と将来-」


 
(1)竹村和朗「中東社会史の一側面としての砂漠開発:エジプトの状況について」
 政治史への偏向に対する歴史学内部からの批判的取り組みとみなしうる「社会史」と、報告者が専門と
する「人類学」はどのように接近・交錯することができるのか。一つの可能性として、報告者はエジプト人
人類学者リーム・サアドが提唱する、国家政策に影響される人々、政治の中に生きる人々の姿への視点に注目する。
 「乾燥地帯」を多く含む近代領域国家群によって構成される現代中東において、「砂漠開発」は国内の
開発政策として、多かれ少なかれどの国でも取り組まれてきたといえる。それゆえ、この「砂漠開発」とい
う政治の中に生きる人々もまた、中東社会史の一側面であるといえるだろう。本発表では報告者がフィールドワークを行ったエジプトを事例にとる。
 現代エジプトの砂漠開発を扱う際には、本来「砂漠開発」とは、砂漠に起こる様々な経済活動を含めるものだが、エジプトにおいては「砂漠の農地化」を目指した「砂漠開拓」こそが「砂漠開発」として扱われてきたことに注意を要するだろう。
 さてエジプトでは、1952年7月革命以降成立した体制が、50年代から60年代にかけてその国家主義的な性質を強めていく中で、砂漠開拓を国家的事業として強力に推進した。1970年代に一旦動きを停止したものの、80年代に再発進し、90年代後半には急加速を見せながら現在に至っている。
 こうした砂漠開発には、@計画、A土木事業、B開拓地管理という三つの局面がある。それぞれの局面に応じた人々の関与を見ていくと、砂漠開発に関わる人々を類型論的に把握することができる。その中において、政策に直接関与しているものや「砂漠の農地化」という政策の掲げる目標に合致するものは従来の社会科学や政治学等の研究によって比較的取り上げられてきたものの、それら以外のカテゴリーに属するものはこれまでつねに見落とされてきた。
 そうした人々の一例として、報告者がベヘイラ県サウスタハリール地区において行ったフィールドワークの中で出会った農場労働者の話を紹介する。彼らの賃金は砂漠開拓政策の中で生み出された大農場において周縁的に雇われながら、その賃金でもって開拓地社会に住み生きている。こうした存在に目配りをしながら、政治から抜け落ちた人々のみならず、政治の直接的・間接的影響下に生きる人々の姿を中東社会史を拾い上げていくべきではないか、と報告者は提案する。
 以上に要約される竹村氏の報告に対しては、フィールドとされた場合の含意、さらにそれがカイロ・アメリカン大学の農場であることの影響、同農場に直接関わらない近隣の通常村の住民との関係など、熱い議論が交わされた。

 (2)大稔哲也「オールド・カイロの諸産業-屠畜・皮鞣・ゴミ回収などの現況と将来-」
 エジプトの首都カイロの庶民地区・低所得地区であるオールド・カイロには、その人為的環境や歴史的経緯から、屠畜、皮鞣し、ゴミ回収(養豚)、窯業、漆喰作りなどが集中して展開してきた。その担い手達は、居住空間や祭事その他を共有し、仕事上も互いに人的連関を有してきた。これらは様々な観点から、都市の外部に置かれるべきとされる諸産業であるが、カイロ都市圏の急激な膨張によって、その内側に位置するオールド・カイロに取り残される結果となった。現在、当局は永年の課題であった同地域の再開発を強力に推進しており、すでに屠畜場と窯業の大半は移転させられている。
 本報告では、まずオールド・カイロ地区とその諸産業の成り立ちを歴史的に振り返り、その後に屠畜、皮鞣し、ゴミ回収(養豚)、窯業、漆喰作りなど、同地に展開してきた諸産業のあり方を、映像・図像資料をもとに具体的に見ていった。そのうえで、移転問題とそれに対抗する彼らの生存戦略、諸産業の抱える社会的問題点にも言及した。
 なお、本報告に対する質疑応答では、図像(特にビデオ)資料をめぐる問題や竹村発表と関連が問い直された。

                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
GROUP2
  Structural Change in Middle East Politics