2007年度第13回研究会:「中東民主化研究班」第3回研究会
  
  日時: 2008年1月12日(土) 14:00~18:00
  場所: 東京大学法文1号館
  報告者・報告題目:  福富 満久(中東調査会研究員)
            革命20周年ーベン・アリ政治と民主化ー
            今井 真士(慶応大学大学院法学研究科博士課程)
            中東地域の政治体制を「動態的に観る」ということ
            -比較歴史社会科学アプローチの可能性ー


今回の研究会は、中東地域の民主化事例と一般的な民主化研究の双方を最初から研究されている、若手の研究者に日頃の成果を発表いただき、まさに民主化研究班にふさわしい内容となった。

 福富氏はチュニジアの民主化事例を、「アクター中心主義」、「比較政治制度論」、「レンティア国家論」の3つの理論から考察した。1987年に権力を掌握したベン・アリ首相は、さまざまな政治的自由化を実施し、1989年の大統領選挙において圧倒的勝利を収めた。これがチュニジアの民主化だが、ベン・アリ大統領就任後は強権的な政治が復活し、選挙の制度と運用に関わる問題や巨大な警察、報道や人権の制限などが批判されている。福富氏はこれらの問題や脆弱な野党・イスラーム勢力について詳しく言及しつつも、同時に「恩顧よりも能力主義」による人材の登用や成果主義の政治、経済成長、パイプラインなどに関わる利権収入による開発政策などを解説し、ベン・アリ政治に対するポジティブな評価が存在することを指摘した。いわば、功罪相半ばといったベン・アリ政治だが、これを上記した民主化理論に当てはめて考えてみると、2番目の「比較政治制度論」を修正的に用いて、たとえば官僚制多元主義国家・開発主義国家・社会民主的コーポラティズム国家の特徴をバランスよく(都合よく)備えた、これら類型の中心に位置付けられるような状況と評価した。

 今井氏は、一転して民主化に対する理論的アプローチの議論と問題を整理した。近年、比較政治学では「比較歴史社会科学(CHSS)アプローチ」という方法論が確立されつつあるが、中東地域の事例に用いられることはまだ極めて少ない。これは「歴史的制度論」などとも呼ばれ、「時間」を長く設定することにより従来の理論的な不備を補い、より現実的な考察や評価を求めるものである。因果的メカニズムを重視する研究では、例えば権威主義は諸事例に共通する要素・性質を指摘するが、さまざまな事例間の違いは出てこない。逆に時間的文脈のみを追うと、今度は各事例の個別性のみが現れて、一般的な事象を分析できない。そこで、CHSSは同一のテーマで対象国を複数とし、かつ長期的な変化を追うことにより、この矛盾を解消しようとする。偶発的な事象がその後の制度や状況に関わる選択の余地をなくしていくという過程や、小さな変化の蓄積により大きな制度的変化が生じるといった展開が、「経路依存」と「制度進化」というアプローチによって説明されている。上記の矛盾は、いろいろなテーマや分析にも広く認識されている問題であるため、このアプローチが適用または援用される研究が、今後増えていくことが期待される。   以上


 


                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
GROUP2
  Structural Change in Middle East Politics