東京大学東洋文化研究所技術補佐員

 飯野りさ

 

 以下は、46日出発、22日帰国の日程で、学会参加等のため、イギリスおよびスウェーデンに渡航した際の報告である。

 8日から11日の四日間は、オックスフォード大学で開催されたイギリス民族音楽学会British Forum for Ethnomusicology の年次大会に参加し、8日に報告を行った。Globalisation and the Articulation of Epistemologiesというタイトルのパネルの中でHow they differed in musical understanding: a comparative study of two musical intellectuals in Cairo in the first half of the twentieth century というタイトルの発表を行った。この発表は、20世紀前半のカイロにおいて、土着の音楽理解に基づき音楽を教授していた人物と、ヨーロッパでの教育を基に音楽教育に携わった人物、この二人の自民族の古典音楽に関する理解や認識の差異を比較検討したものである。同パネルでは、18世紀フィリピンにおける西洋音楽と土着の音楽の邂逅がもたらした、認識や知識の衝突・融合に関する考察、および20世紀前半のヨーロッパ内における類似した問題に関してそれぞれ発表があった。発表者は各々、オーストラリア人およびドイツ人であり、国際学会という場がなければそれぞれの問題設定に類似点があることは気付きにくい。今回の学会参加の一つの成果といえる。同学会参加のもう一つの成果は、アメリカ、イギリス、ベルギー、ドイツ、パレスチナ、トルコ、ギリシャなどでアラブ音楽や中東の音楽の研究に携わる研究者の研究動向を知ることができた点および、意見交換の場が持てた点である。

 12日から17日の約一週間は、前半はグラスゴー大学の資料室で、20世紀前半に活躍したイギリス人アラブ音楽研究者の蔵書や直筆のメモ・手紙等を調査した。後半はオックスフォード大学の図書館にて、19世紀末のアラビア語の書籍を閲覧した。

 19日および20日はスウェーデン南部の都市ルンドにあるルンド大学で開催された Bashahr al-Asads First Decade: A Period of Transitionという学会に参加する予定であった。しかし、同学会開催前の16日から、アイスランドにおける火山の噴火の影響で、ヨーロッパでは航空路線が麻痺し、各地の空港が閉鎖された。18日にロンドンから目的ルンドに近いコペンハーゲンまで空路で向かう予定であったが、この影響で航空便がキャンセルされたため、学会参加を諦めかけた。が、運よく、陸路にて移動し、20日の縮小セッションには参加できた。当然ながら、参加者は近隣諸国の研究者だけであったが、イギリスの民族音楽学会とは異なる分野のスウェーデンやデンマークの研究者と意見が交換でき、不幸中の幸いであったとえいる。

 21日にはコペンハーゲン空港も運航を再開し、予定通り成田行きに搭乗し、22日午前に帰国した。

                                                  (以上)



出張報告: