出張報告

吉岡 明子(日本エネルギー経済研究所中東研究センター)

 

期間:200831020

渡航先:イギリス(ロンドン、エクセター)、UAE(ドバイ)

 

今回の現地調査では、イラク国内での調査が治安状況のために困難であることから、周辺国並びに欧州で調査を実施した。慌ただしい日程ではあったものの、政治状況の分析、並びにエネルギー部門の情報収集を中心に多くの聞き取り調査を実施することができ、有意義なものとなった。

 

ロンドンでは学者、研究者を中心に3日間で6件のインタビューを行った他、日帰りでロンドンからエクセター大学に赴き、同大学のInstitute of Arab Islamic Studies2名の教授との面談を実施した。ドバイでは、在外イラク人を中心に4日間で計8件のインタビューを行った。また、ロンドン、ドバイの両方で書店を数件回って資料収集も行った。エクセター大学では、Institute of Arab Islamic Studiesの公文書館を見学したが、時間が限られていたため、メインの図書館を含め資料収集をじっくり行えなかったことが残念である。図書館は基本的にはビジターにも開放しているとのことで、公文書館はとりわけ湾岸地域の資料が抱負に揃っていたイラク国内での調査が治安状況のために困難であることから、周辺国並びに欧州で調査を実施した。。

 

現在のイラク情勢については、特にイラク人の間では立場によって見方が大きく異なる傾向があるが、今回の調査でも、占領軍と共にイラクに戻ってきた亡命政治家に対する痛烈な非難から、経済制裁解除に伴う経済状況好転に対する歓迎といった様々な声が聞かれた。しかし、全体的に汚職の蔓延とそれに伴う組織犯罪の増加が増えているとの指摘が多かったことは印象的であった。治安問題は反米武装闘争、イスラーム過激派の活動、宗派間抗争などの枠組みで捉えられがちであるが、政治家や政党が保有する民兵などによる汚職に根ざした組織犯罪(密輸、麻薬等)が蔓延し、そうした組織犯罪への協力を拒む市民が殺害されるというケースが増えている模様で、法と秩序の崩壊の結果と言える。今後の動向について研究者の間では、政府が非常に弱く適切に機能していないという状況に対して打開策は少ないが、一方で政府の完全な崩壊に至るような兆しも少なく、不安定な状況が続くのではないかという見通しが多かった。戦後の政治プロセスを「民主化の試み」として肯定的に捉えた場合でも、その定着には長い時間がかかることは避けられない、という意見も一致しており、今年10月に予定されている地方選挙、来年末の総選挙が状況を好転させる何らかのきっかけになり得るのでは、という期待が聞かれた。

 

以上