2007年3月2日から3月16日まで、エジプトの政治エリートに関する資料
収集と政治活動家へのインタビュー調査を目的にカイロに出張した。収集
する資料は、エジプトの政権与党国民民主党の地方支部において発行し
ている党活動に関する資料、そして国立図書館とアメリカン大学ではナセル
時代から現在まで政権で要職にある政治家の家族データの収集である。
聞き取り調査については、独立系ジャーナリストを対象に行うことを予定して
いた。
 アメリカン大学の図書館では、1960年代の紳士録の複写を収集しゅた。
紳士録は複写が規制されているため、全頁を揃えるには思いのほか時間を
要した。アメリカン大学図書館で複写が許される分量は、規定が設けられ
制限されているが、これまである程度は複写の担当者の裁量に任されてい
た。しかし近年、その規定が厳しく遵守される傾向にある。そのため、分量の多
い紳士録の複写を入手するために、毎日少量ずつ、違う担当者に複写を
依頼するなどした。また整備されているアメリカン大学の図書館でも、普段利
用者が少ない資料室では、資料室の鍵を持った担当者が長時間席を外し
ていることも多い。利用に際しては、予想外に時間を要することも予期しておく
べきと思われる。
 国民民主党のマーディー支部に赴き、提供できる範囲内での資料の提
供を求めた。国民民主党に限らず、エジプトの政党は国民へ党活動を積極
的に宣伝する体制にはなっていないため、入手することができたのは地域レベ
ルの党活動を記載したパンフレットに限られた。今回はマーディー地区の他
に偶然ギーザ地区の党活動の資料を入手することができた。まとまった量の
資料ではないが、国民民主党の活動に関する情報がほとんど入手すること
ができない現状では、これも実際の党活動と党の命令系統を知る貴重な資
料になると思われる。
 昨年末まで日刊紙マスリーアルヤウムで実質的な編集長を務めていた
ヒシャーム・カースィム氏へインタビューを行った。質問の内容は主に石油業
のサラーハ・ディヤーブ、オラスコム社のサウィーリスー族など大実業家の政
治的影響力に関するものが中心となった。英米のマスコミからも注目されてい
るカースィム氏は非常に多忙であるため、インタビューは極限られた時間であ
ったが、活字では決して書かれることのない大実業家の政府の経済、政治
政策に対する見解を知ることができたという意味で内容の濃い聞き取り調査
であった。
 児童雑誌「フラッシュ」の著者のハーリド・スィフティー氏へのインタビュー
を実施した。私は2006年12月、拠点1・グループ2「中東社会史班」の第1回
研究会において「エジプトの漫画雑誌にみる児童教育」と題する発表を行
い、主な研究題材として「フラッシュ」に連載されている「ムワーティン・マトフ
ーン」を取り上げた。インタビューでは題材のメッセージ性の有無などについ
て質問をした。今回の聞き取り調査は先方と当方の都合の関係で十分な時
間を取ることができなかったため、次回カイロを訪問した際に再度聞き取り調
査を行うことを約束した。
 現代の流動的なエジプトの政治状況の実情を知るためには、活字媒体
だけではなく政治家や活動家など関係者への聞き取り調査は欠くことができ
ない。今回の調査では、資料収集と聞き取り調査ともに偏りなく実施すること
ができた。

出張報告: