仏教における死生観 開催趣旨

仏教は、もともと生・老・病・死の苦という問題から出発しており、生と死についてもっとも深く考えてきた宗教である。大まかに言えば、仏教とは生死の苦から解脱することを目的とする宗教ということができる。しかし、広い地域と長い時代にわたって展開してきているだけに、その中にはさまざまな思想が展開し、必ずしも単純な原則論で一貫しているわけではない。

また、思想面の展開だけでなく、仏教はしばしば葬送儀礼に関与することによって、民衆の支持を得てきた。葬式仏教という日本の仏教の形態はそのもっとも典型とするところである。仏教を抽象化された思想としてだけでなく、現実に行なわれる儀礼と関連させて理解しようという傾向は、近年の仏教研究の主流となりつつある。

思想・儀礼の両面からスポットライトを当てることにより、一見すでに論じつくされているかに見える仏教の死生観は、まったく新たな相貌を見せることになるであろう。

今回のワークショップは、主として中国・日本の仏教を専門とする海外研究者を招いて開催される。提題者1名に対して、6名の討論者というやや変則的な形で行なわれるが、これはできるだけ形式化せず、自由な討論ができるようにという配慮による。

提題者であるジャクリーン・ストーン氏は、日本中世の本覚思想を専門とすると同時に、近年、臨終の儀式や往生の問題に関しても研究を進めている。本覚思想においては、生死即涅槃の思想が進展し、生死の世界を超越することなく、そのまま悟りであると主張されるようになった。しかし、そのような原則論で必ずしも生死の問題が解決するわけではなく、それゆえにこそ極楽往生を求めてさまざまな儀礼が発展することになった。

思想と儀礼の両面に通じたストーン氏は、新しい研究をリードする代表的な研究者のひとりである。氏の最新の研究成果から、古代・中世の日本人の生と死に関する思索と実践が具体的に浮かび上がってくることであろう。

討論者のうち、ダニエル・スティーヴンソン氏、ポール・スワンソン氏、リンダ・ペンカワー氏は主として中国仏教を専門とし、ジャン・ノエル・ロベール氏、ポール・グローナー氏は主として日本仏教を専門としている。いずれも着実な文献研究に基づきながら、広い視野に立って新鮮な成果を発表している最前線の仏教研究者である。当該分野の7名もの第一線の海外研究者がそろうことは、なかなか得がたいことであり、活発で有益な議論が展開されることが期待される。

議論は古代・中世を中心としたものになるであろうが、それはそのまま現代における問題に直結してくる。過去と現代にまたがって展開されるスリリングな議論に期待したい。