関東大震災と記録映画〜都市の死と再生 開催趣旨

1923年9月1日に起こった関東大震災は東京を壊滅させたが、同時にまた江戸の名残りをも一掃した。必然的に、震災からの復興は新たなデザインによる東京を出現させた。建築、美術、写真、商業デザイン、演劇、映画などの造形表現が都市文化の創造に大きく貢献し、このことは積極的に評価されてきた。しかし、そのように廃虚からよみがえり、1930年に帝都復興祭を華々しく開催した東京には、わずか15年の生命しか与えられなかった。1945年のアメリカ軍による空襲が、再び東京を破壊したからだ。大震災と大空襲はたくさんの都市住民に死をもたらした。さかのぼって、1855年の江戸を襲った安政大地震を視野に収めれば、東京の近代史とは大量死を重ねてきた歴史でもある。

シンポジウムは、関東大震災が都市に何をもたらしたのかを、死生学の観点から解読しようとする試みである。大災害に見舞われた都市が、どのように死者に対処し、慰霊し、悲劇を克服しつつ、再生するのかを検証したい。そのために、東京の死と再生を記録した映画を手掛かりとする。第1に、記録映画が何を記録し、何を記録していないかを探るとともに、ひるがえって関東大震災が映画表現に与えた影響について考える。第2に、映画以外の視覚メディアが震災をどうとらえたかを探り、結果として、ここでもまた映画表現の独自性を明らかにする。第3は、都市に目を向け、死者を含めた災害の記憶が都市計画や建築にどのように反映したかを探る。上映映画はこれまでに未紹介のものを中心とし、映像資料から多様な情報を引き出す文化資源学の実践の機会としたい。