死生観と心理学 開催趣旨

昨年度からスタートした21世紀COEプログラム「生命の文化・価値をめぐる「死生学」の構築」は、東大文学部を拠点とするプロジェクトで、現代の知の布置の中でますます重い位置を占めるようになってきている「いのち」や「死」をめぐる諸問題について、広がりと深みをもった総合的な学知を構想し、構築しようとするものです。公開シンポジウムでは、この死生学COEと共催で、「死生観と心理学」というタイトルのもと、4人の話題提供者にお話頂きます。

島薗進先生には、死生学COEの拠点リーダとして、COEの進捗状況について説明頂いた上に、死生観への関心が興隆しつつある現状と臨床心理学や心理療法の流行との関係について、また、心理学が死の準備教育などと結びつくことによって、心理学の役割や方法の上で生じる変化などについて論じて頂くことになります。

金児暁嗣先生には、死生観の規定因と死の怖れに関して論じて頂きます。死に対する意味づけ、例えば多くの宗教はその発展過程において、死を問題として設定し、死に固有の意味づけを与え、死の問題に対する解決の試みを提示してきました。それらは死の受容的意味づけと言えますが、一般に現代人は死を否定的に見る傾向が強くあります。そうしたさまざまな死生観を規定する要因について、とくに日本人の固有観念(オカゲとタタリ)と死の怖れとの関係に触れながら議論して頂きます。

杉下守弘先生には死生観への神経心理学的アプローチに関して、脳の電気刺激による臨死体験や磁気刺激による神の存在体験を検討し、心身二元論について論じて頂くことになります。

辻敬一郎先生には、生物とのかかわりの実体験や代理体験が、生活史を通じて生命の概念化や生命観の形成にどのように影響するかを検討して頂きます。調査および実験の所見によれば、1)生物との知覚的かかわり(動物を見る)に比して行動的かかわり(動物とふれあう)が生命概念の獲得に大きな効果をもつこと、2)動物とのかかわりの遮断(喪失体験)が喚起する感情経験が生命観の形成を促す可能性をもつことが示唆されます。この研究例にもとづいて、高度情報化社会における人間の基本的心性の在り方とその変容について考察を試みます。

辻先生と杉下先生は実験的な方法、金児先生は統計調査的な方法、島薗先生は心理学を横から眺めるような文化研究的な方法で話題提供していただけると思います。「死生観」と「心理」のそれぞれを研究する方法の多様性と、その接点について考えたいと思います。死生観に関する様々な心理学的なアプローチの違いの意味を考えることが、本シンポジウムの重要な課題になるでしょう。本シンポジウムが、そうした出会いの場を提供できればよいと思っています。