06  宗教学・宗教史学

 教授 島薗 進  SHIMAZONO, Susumu

1.略歴
 1972年 3月  東京大学文学部宗教学宗教史学科(文学士)
 1974年 3月  同   大学院人文科学研究科修士課程修了(宗教学宗教史学)
 1977年 4月  同   博士課程単位取得退学(同上)
 1977年 4月  日本学術振興会奨励研究員
 1977年 9月  筑波大学哲学思想学系研究員(文部技官)
 1981年 4月  東京外国語大学外国語学部日本語学科助手(のち専任講師、助教授に昇進)
 1984年 8月  カリフォルニア大学バークレイ校留学(フルブライト奨学金) ~'85年7月
 1987年 4月  東京大学文学部宗教学宗教史学科助教授
 1994年 1月  同              教授
 1995年 4月     同  大学院人文社会系研究科教授 ~継続中
 1996年 3月  シカゴ大学宗教学部客員教授 ~'96年5月
 1997年11月  フランス社会科学高等研究員招聘教授 ~'97年12月
 2000年 6月  テュービンゲン大学日本文化研究所客員教授 ~'00年7月
  2005年 4月  東京大学大学院人文社会系研究科次世代人文学開発センター創成部門(死生学)教授 (兼任)
  2006年 2~4月 カイロ大学文学部、客員教授
2.主な研究活動
 a 専門分野 と b 研究課題
  概要と自己評価
  (1) 死生学の諸問題について考察している。①死生観、死生学という概念・学知の歴史、②日本人の死生観と宗教の関わり、③生命倫理と人間の尊厳をめぐる諸問題、④死生学の方法論的・理論的枠組み、など。21世紀COEプログラム「死生学の構築」の拠点リーダーとして、新たに興隆しつつある死生学の基礎づくりが重要な仕事になってきている。
  (2) 近代日本の宗教の歴史を総体としてとらえ、現代日本人の生活や思考において、宗教がどのような位置を占めているかを明らかにしようとしている。明治維新以降、また第二次世界大戦後の日本の宗教史を理解する鍵概念として「国家神道」があるが、この概念の意味するものを正確にとらえることを目標としている。
  (3) 現代世界の中で宗教はどのように多様な形をとって広がっているかを調査研究を踏まえて研究し、現代人の精神状況について考察してきている。発展途上地域でのファンダメンタリズムを含めた救済宗教的な復興運動の強力な展開、先進国での従来の「宗教」という語に収まらないようなスピリチュアルなものへの関心の拡充などを統合的に理解することを目指している。
  (4) 一九世紀から二〇世紀のはじめに確立してくる有力な宗教理論の意義について検討し、新たな宗教理論の可能性について考察する。これに関わって、(1)(2)のどちらの問題にも関わるが、そもそも「宗教」という概念がどのような背景をもったものであり、どれほど適切なものであるかを検討するという課題についても研究を進めている。
 c 主要業績
  (1) 著書
単著、「いのちの始まりの生命倫理――受精卵・クローン胚の作成・利用は認められるか」、春秋社、2006.1
共著、島薗進・葛西賢太・福嶋信吉・藤原聖子編、「宗教学キーワード」、有斐閣、2006.9
共編著、「宗教学の形成過程・全9巻(シリーズ日本の宗教学④)」、2006.10
編著、「思想の身体 悪の巻」、春秋社、2006.11
単著、「スピリチュアリティの興隆――新霊性文化とその周辺」、岩波書店、2007.1
共編著、島薗進・永見勇、「スピリチュアリティといのちの未来――危機の時代における科学と宗教」、人文書院、2007.1
共著、町田宗鳳・島薗進編、「人間改造論――生命操作は幸福をもたらすのか?」、新曜社、2007.9
編著、島薗進・石井研士・下田正弘・深澤英隆編、「宗教学文献事典」、弘文堂、2007.12
  (2) 論文
「新宗教の生命主義的救済観と死生観――金光大神を例として」、福音宣教、2006年7月号、31-8頁、2006
「死生学とスピリチュアリティ――「スピリチュアル」と「いのち」の語に注目して」、アジア遊学(勉誠出版)、84号 特集・アジアのスピリチュアリティ――精神的基層を求めて、18-26頁、2006.2
「宗教の変容と個人」、稲垣久和・金泰昌編『宗教から考える公共性――公共哲学16』東京大学出版会、1-23頁、2006.2
「戦後の国家神道と宗教集団としての神社」、圭室文雄編『日本人の宗教と庶民信仰』吉川弘文館、482-504頁、2006.4
「抵抗の宗教/協力の宗教――戦時期創価教育学会の変容」、倉沢愛子他編『岩波講座 アジア・太平洋戦争6 日常生活の中の総力戦』岩波書店、239-268頁、2006.4
「The Vitalistic View of Life and Death in Japanese New Religions」、 The Japan Mission Journal、Vol.60, No.2、 pp.75-80、2006.8
「生命文化と人口統御の経験」、コギト(Cogito:The Journal of PNU Humanities Institute)釜山大学人文学研究所、第60号、51-80頁、2006.8
「Traditional Japanese Religious Society」、Mark Juergensmeyer ed., The Oxford Handbook of Global Religions, Oxford University Press、pp.133-139、2006.9
「戦後新宗教の戦争理解――修養団棒誠会の場合」、西川祐子編(ひらたまさき、キャロル・グラック監修)『歴史の描き方2 戦後という地政学』東大出版会、69-92頁、2006.11
「神道と国家神道・試論――成立への問いと歴史的展望」、明治聖徳記念学会紀要、復刊第四十三号、110-130頁、2006.11
「仏教と大衆自立思想――権威に抗う在家仏教の時代性」、末木文美士編『現代と仏教――いま、仏教が問うもの、問われるもの』佼成出版社、122-143頁、2006.12
「新しいスピリチュアリティと宗教の再定義――世俗化と宗教性の新しい形式」、日仏文化、73号、34-43頁、2007.2
「人の胚の研究に慎重でなければならない理由――人間の尊厳の異なる考え方」、死生学年報 2007(東洋英和女学院大学死生学研究所)、103-128頁、2007.3
「新霊性文化と平和を志向する社会・政治活動」、日本平和学会編『平和研究』(特集・スピリチュアリティと平和)、32号、99-118頁、2007.11
  (3) 書評
「赤沢史朗『靖国神社――せめぎあう〈戦没者追悼〉のゆくえ――』』」、学術論文誌、『日本史研究』527号、66-73頁、2006.7
  (4) 解説
「強硬派政治宗教勢力の台頭をどう理解するのか?」「日本の読者のための読書案内」、書物巻末解説「マリーズ・リズン『ファンダメンタリズム』(中村圭志訳)」、岩波書店、2006.11
「村上重良『新宗教――その行動と思想』」、巻末解説、岩波書店、頁253-259、2007.2

3.主な社会活動
  (1) 行政
宗教法人審議会、委員、2007~
  (2) 学会
「日本宗教学会常務理事」
「British Journal of Sociology(英国社会学会学術誌)」、編集顧問、2007~
  (3) 学外組織(学協会、省庁を除く)委員・役員
「国際宗教研究所」、理事、2007~
「東京大学仏教青年会」、理事、2007~
「Japanese Journal of Religious Studies 」、編集顧問、2007~
「Social Science Japan Journal 」、編集顧問、2007~



 教授 鶴岡 賀雄  TSURUOKA,Yoshio

1.略歴
 1976年3月  東京大学文学部宗教学・宗教史学科卒業
 1979年3月  東京大学大学院人文科学研究科宗教学・宗教史学専門課程修士課程修了
 1982年3月  同 大学院人文科学研究科宗教学・宗教史学専門課程博士課程単位取得退学
 1982年4月  日本学術振興会奨励研究員(~1983年3月)
 1984年4月  東京大学文学部助手
 1985年4月  工学院大学工学部専任講師
 1987年4月     同    助教授
 1996年4月     同    教授
 1998年4月  東京大学大学院人文社会系研究科助教授
 2001年10月  東京大学より博士(文学)の学位取得
 2002年4月  東京大学大学院人文社会系研究科教授

2.主な研究活動
 a 専門分野
   宗教学、宗教思想
 b 研究課題
  (1) 近世西欧(とくにスペインとフランス)における神秘思想の研究を一貫して続けており、まずは16~17世紀のいわゆるスペイン神秘主義について、代表的人物の個別研究と一連の歴史思潮研究とが融合した体の著作を企画中である。近年中に上梓したい。
  (2) 上の研究課題の鍵語である「神秘主義」という概念、およびその実質的内容について、近現代(19世紀末~20世紀の西欧と日本)における歴史的形成過程およびその意義についての研究を進めたい。とりわけ、19世紀以来の実証的宗教研究(いわゆる宗教学)の発想と知見を受け入れつつ「神秘主義」という概念を自らの宗教思想形成の重要な契機とした思想家、宗教者の研究を、やはり個別研究と歴史思潮の研究とを兼ね併せたかたちで遂行したい。
  (3) これら宗教思想史上の研究成果に基づきつつ、宗教を巡るより一般的な議論も行っていきたい。
 c 主要業績
  (1) 著書
編著、Gerrie ter Haar, Yoshio Tsuruoka(eds.)、「Religion and Society: An Agenda for the 21st Century」、Brill、2007.10
  (2) 論文
「唯一神と人格神」、大貫隆・金泰昌・黒住真・宮本久雄(編)『一神教とは何か』、247-281頁、2006.3
「現代フランスの宗教研究および宗教哲学研究」、『現代世界における「宗教」研究の新動向を巡る調査および検討』、1-19頁、2006.3
「「異界の表象」の誕生と消滅―イグナティウス・デ・ロヨラの幻視の行方―」、渡辺和子・細田あや子編『異界の交錯(下巻)』、2006.12
「十字架のヨハネとプロティノスにおける絶対者との「接触」論」、新プラトン主義研究、6号、91-104頁、2006.12
  (3) 学会発表等
「李窓益「エリアーデと差異の解釈学」への応答」、Korea-Japan Joint Seminar on Religious Studies 2006、ソウル、2006.6.24
「氣多雅子「東西宗教交流学会の特質とその意義―宗教哲学の視点から―」へのレスポンス」、東西宗教交流学会学術大会、南山大学、2006.7.27
「パネル「死後生というテーマ」」、日本宗教学会第65会学術大会、東北大学、2006.9.18
「フランシスコ・デ・オスーナ」の内的潜心論」、日本宗教学会第65回学術大会、東北大学、2006.9.2.19
「西洋宗教史における「行」の不在と「身体」の意義づけ」、日本宗教学会第66回学術大会、立正大学、2007.9.15
「Les Deux Sources de la Morale et de la Religion dans l'Hitsoire du mysticisme」、国際ワークショップ「生の哲学の彼方:ベルクソン『道徳と宗教の二源泉』再読」、2007.10.18
  (4) 書評
「『スピリチュアリティを生きる』『現代社会とスピリチュアリティ』『スピリチュアリティの社会学』『伊藤雅之、樫尾直樹、弓山達也、他』」、学術論文誌、『宗教研究』346号、163-173頁、2006.12
  (5) 研究報告書
「現代世界における「宗教」研究の新動向を巡る調査および検討」、2006.3



 教授 市川 裕  ICHIKAWA,Hiroshi

1.略歴
 1976年3月  東京大学法学部卒業(法学士)
 1978年3月  東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了(宗教学・宗教史学)
 1982年7月  ヘブライ大学(エルサレム)人文学部タルムード学科特別生等(1985.7.)
 1986年3月  東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学
 1986年5月  筑波大学哲学・思想系文部技官(~1990.8.)同講師(~1991.3.)
 1991年4月  東京大学文学部助教授
 2004年4月  東京大学大学院人文社会系研究科・文学部 教授 現在に至る
 1998年10月~11月  ボストン大学人文学部客員研究員

2.研究活動(概要)
 a 専門分野宗教史学・ユダヤ教
 b 研究課題
 (1) 宗教的想像力の比較宗教学の構想:聖書とタルムードの宗教を基盤とするユダヤ教の宗教思想の特徴を、自由の精神の意義に重点を置いて宗教と法の基礎理論を構築し、これをモデルにして、他の古典的宗教、ギリシャ・ローマ、キリスト教、仏教、儒教、イスラム教との比較考察を行う。
   かねて検討を重ねていた著作は、2004年4月に『ユダヤ教の精神構造』として、東京大学出版会より出版され、既に発表済みの論文をまとめたものとはいえ、一つの区切りとなった。また、2005年3月に東京で開催された国際宗教学宗教史会議第19回大会では、実行委員及び事務局員として開催に尽力する一方、研究発表についても、“Authority in Judaism in Conflict: From the Ancient to the Early Modern Period”(ユダヤ教をめぐる権威の葛藤:古代から初期近代まで)のテーマでパネルを組織し、米国のヒレル・レヴィン氏、ギリヤ・シュミット氏、日本の勝又悦子氏の参加を得た。私の発表は、‘The Authority of Rabbi and the Recognition of Controversy’(ラビの権威と論争の承認)であった。この内容は、ラビの権威をモーセから連綿と続く師資相承に求め、禅仏教の正法単伝と対比したものである。
   また、2005年11月には、死生学COEの一環で、UCLのジョン・ノース教授を招聘し、『古代ローマ人の死生観とその変容』を総合テーマに、5回の連続講演を実施。12月には、シカゴ大学のノーマン・ゴルブ教授を招いて、布施学術講演会「写本の歴史学的意義:カイロ・ゲニザを中心に」を開催した。
 (2) 宗教学の観点から近現代を見直す作業:近代に遭遇したユダヤ教の葛藤と変容を研究の出発点として、近代の人間観、世界観を形成した啓蒙主義とロマン主義の今日的意義を考察し、現代世界の喫緊の課題の淵源とその解決のための枠組みを提示し、もって日本の近代の理念を再検討する。
   2003年度から3年間の科学研究費基盤研究B「ユダヤ人のアイデンティティを通して見た近代国民国家の理念と現実」の第2、3年度に当たり、広島、札幌の研究合宿を実施、特に、札幌では、2005年6月25日に、北大スラブ研究センターその他との共催で、「近現代世界におけるユダヤ人―民族的アイデンティティと国家のはざまで―」と題して学術大会を開催し、実りある共同研究を実施できた。
   なお、本研究の私自身の成果としては、19世紀西欧の啓蒙主義国家観と20世紀の民族主義的全体主義的国家観のせめぎ合いの中で、Judaismの概念が宗教と民族との間で揺れ動き、ユダヤ人のアイデンティティ形成に甚大な影響を与えたことが確認された。それゆえ、近代においては、主権国家の理念と政治的決定を、宗教学の「究極的関心」の対象として検討することの必要性を、2005年9月の日本宗教学会第64回学術大会の発表で「宗教理論における国家の存在意義」と題して論じた。
(3) イエス時代のユダヤ人社会に関する宗教史的研究。2005年度の駒場、慶應大学、及び芸大の講義で、「一神教の歴史と思想」と題して、重点的に第2神殿時代のイスラエル宗教史を扱い、後期の文学部の講義でさらに詳細を検討する予定である。
 c 主要業績
  (1) 著書
共著、「思想の身体―戒の巻、 第3章 一神教と<戒>―ユダヤ教的特徴」、春秋社、2006.8
  (2) 論文
「生と死をつなぐ想像力―東欧ハシディズムの救済信仰―」、リトン宗教史学叢書 『異界の交錯』、199-235頁、2006.2
「宗教理論における国家の存在理由」、宗教研究、347号、79巻-4、161-162頁、2006.3
「レヴィナスにおけるタルムード研究の意義」、レヴィナス―ヘブライズムとヘレニズム―、哲学雑誌 121-793、1-19頁、2006.9
  (3) 学会発表
「エマニュエル・レヴィナスにおけるタルムード学の意義」、日本宗教学会第65回学術大会、東北大学、2006.9.17
「レヴィナスとタルムード研究」、三田哲学会、慶應義塾大学三田キャンパス、2006.11.4
「ユダヤ教メシアニズムに対するレヴィナスとショーレムの見解」、日本宗教学会、立正大学、2007.9.16
  (4) 研究報告書(編著)
「ユダヤ人のアイデンティティ問題から見た近代国民国家の理念と現実」、科研費 基盤(B) 、(分担執筆)、13-16、29-54頁、2006.3
  (5) 研究組織その他
文部科学省科学研究費補助金、研究代表者、「近代ユダヤ文化論の学際的総合研究」、近代西欧のユダヤ人解放が東欧や中東のユダヤ人社会に及ぼした影響とアイデンティティ危機にあって、ユダヤ文化はいかなる展開と変貌をひきおこしたか。2006から4年間。
  (6) 展示
「聖書に生きる:トーラーの成立からユダヤ教へ」、協力者・イスラエル大使館、東大宗教学研究室、東大駒場美術博物館、2006.5.25~2006.7.23展示、古代イスラエルの発掘出土資料から離散のラビ・ユダヤ教社会の宗教民族文献資料までを展示し、生活と宗教との関わりあいについての理解を深めることを意図した

3.主な社会活動
  (1) 他機関での講義等
JTBカルチャーサロン非常勤講師、2006.4~2007.3
神社本庁特別講演、2007.1
JTBカルチャーサロン非常勤講師、2007.4~2008.3
立教大学文学研究科非常勤講師、2007.4~2008.1
立教大学全学共通カリキュラム非常勤講師、2007.5~
創価大学非常勤講師、2007.5~
山形県生涯学習センター特別講演、2007.6
東京芸術大学非常勤講師、2007.8~2007.9
西南学院大学特別講演、2007.11
東京外国語大学AA研、2007.12~
同志社大学CISMORユダヤ会議、2007.12~
  (2) 学会
「日本宗教学会」、理事、2007~
「日本法哲学会」、一般会員、2007~
「比較法史学会」、一般会員、2007~
「日本ユダヤ学会」、理事、2007.6~



 准教授 池澤 優  IKEZAWA, Masaru

1.略歴
 1982年3月  東京大学文学部I類宗教学宗教史学専門課程 卒業
 1982年4月  東京大学大学院人文科学研究科宗教学宗教史学専攻修士課程 入学
 1984年3月  東京大学大学院人文科学研究科宗教学宗教史学専攻修士課程 修了
 1984年4月  東京大学大学院人文科学研究科宗教学宗教史学専攻博士課程 進学
 1987年9月  ブリティッシュ・コロンビア大学アジア学科大学院博士課程(カナダ・ヴァンク-バ-) 入学
 1990年8月  東京大学大学院人文科学研究科宗教学宗教史学専攻博士課程 退学
 1990年8月  筑波大学地域研究研究科文部技官、哲学思想学系準研究員  就任
 1993年4月  筑波大学地域研究研究科(哲学思想学系)助手       昇進
 1994年5月  ブリティッシュ・コロンビア大学アジア学科大学院博士課程 修了
 1995年4月  東京大学大学院人文社会系大学院宗教学宗教史学研究室助教授 転任

2.主な研究活動
 a 専門分野
   中国古代宗教研究、祖先崇拝研究、死生観研究
    死者儀礼・祖先崇拝といわれる宗教現象を比較文化的視点から考察することを主たる目的とし、そのための基盤となる研究対象を中国古代に設定する。この問題関心は三層に分けることができ、まず、(A)古代中国の死ならびに死者(祖先)に対する観念と儀礼の背後にある宗教的宇宙観と救済論を明らかにし、(B)それを通して死ならびに死者にかかわる宗教現象の普遍的構造とメカニズムを理論化し、(C)更にそこから凡そ人間にとって死と死者が有する意味について、現代における状況を視野に含めて、考えることを目指している。
 b 研究課題
   具体的な研究課題は以下のように区分できる。
   まず中国古代における祖先崇拝の研究(上記(A))にかかわる分野として
   (1) 中国の殷周春秋時代の宗教現象を出土文字資料(甲骨・金文)を用いて分析し、その意味を考える。
   (2) 戦国・秦・漢時代の出土文字資料(簡牘・帛書・鎮墓文・画像石)を用いて、殷周時代の祖先崇拝が戦国時代以降の死生観と他界観に変化していく様態を明らかにする。
   (3) 殷周~隋唐時代における祖先崇拝・死者儀礼・他界観を全体的な宗教的宇宙観の中に位置づけることにより、“死者であること(死者性)”の基本的な在り方と変化を把握する。
   (4) 儒家を中心とする諸典籍を資料として用い、殷周時代の祖先崇拝に内在していた世界観が「孝」として思想的に昇華され、それが中国の基本的価値観・人間観の一つとなったことを考察する。
   祖先崇拝の比較研究(上記(B))の分野として
   (5) 中国古代の祖先崇拝と「孝」思想の分析によって得られた洞察を出発点として、祖先崇拝という宗教現象を比較文化的視点から検討する視座を用意する。
   (6) 世界中の諸文化に現れる祖先崇拝を具体的に検討することによって、祖先崇拝の本質的意味と可変性を明らかにする比較研究を行う。
   死生観と死者性に関する研究(上記(C))として
   (7) 諸宗教の死に関する儀礼や考えが表明している人間観や価値観は何であるのかを抽象化し、比較研究を行った上で、
   (8) それを現代における死の状況や生命倫理と対照させ、現代の状況を客観的・批判的に捉える視座を用意する。
   この内、(1) (2) (4) (5)は従来からの問題関心であるが、2001年度発刊の著書の中で系統的に見解を述べることができ、かなりの成果を挙げえた。(3)はその問題関心から派生してきた課題であり、現在最も中心的な活動になっている。また、この期間の研究の進展に伴い、上記(7)(8)という研究課題が次第に関心の中心を占めるようになってきている。
 c 主要業績(主なもののみ)
  (1) 論文
「中国古代・中世における“非業の死”の捉え方の諸類型」、死生学研究、2006年秋号、295~305頁、2006.11
「宗教学的生命倫理研究のための素描―私論―(上)」、東京大学宗教学年報、2006、1-16頁、2007.3
「新蔡葛陵楚墓の卜筮祭祷簡の体例と祭祀について」、中国出土資料研究、第11号、6-45頁、2007.3


3.主な社会活動
  (1) 学会活動
「中國出土資料學會」、役員・委員、会長、2006.4~2008.3
「日本宗教学会」、役員・委員、理事、2006~




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