25  社会学

1.研究室活動の概要
 東京大学における社会学の歴史は古い。社会学が「世態学」という名で初めて学科目となったのは1881(明治14)年のことである。そして、1886(明治19)年には「社会学」の名で独立の学科目となり、外山正一や建部遯吾らに支えられて大きく発展した。1919(大正8)年には学科となり、翌1920(大正9)年には2講座になった。その後、戸田貞三のもとで社会調査を取り入れた経験科学がめざされた。  1961(昭和36)年に3講座となり、1960年代には産業社会学、農村社会学、知識社会学、実験社会学(小集団論)、政治社会学、経済社会学にわたって教授陣が整えられ、現代社会を社会学の観点から包括的に教育研究する基礎が築かれた。そして、これをもとに社会学は、文化人類学などと協力しつつ文学部から独立して一つの学部となることをめざしたが、1960年代末に起こった大学闘争の嵐の中でその構想は立ち消えとなった。  1974(昭和49)年に社会心理学専修課程の創設に協力し、1983(昭和58)年以降は大学院総合文化研究科の創設に協力した。1987(昭和62)年から、社会心理学および新聞研究所と協力してふたたび学部となることをめざしたが、新聞研究所の社会情報研究所への改組により、また、東京大学全体として大学院に重点をおいて改革を進めることになったため、1990(平成2)年以降は社会学研究科の部局化に向けて努力がなされた。  しかし、1993(平成5)年になって、人文科学研究科と協議して合同で1つの研究科として部局化することがめざされ、1995(平成7)年度からは、社会学と社会心理学は社会情報研究所の大学院部分とともに、人文社会系研究科の専攻のひとつとして社会文化研究専攻を構成し、その中の社会学専門分野を担当する研究室として今日に至っている。  現在の教員数は、教授5名、准教授2名、助教1名であり、カヴァーする領域は主として学説・理論、家族、ジェンダー、セクシュアリティ、世代、人口、計量、階層、社会意識、文化、計画、福祉、技術、環境などである。  毎年前期課程から進学してくる学部学生は50名、また学士入学で定員10名の学生を受け入れている。進学してくる学生の関心は多様であり、卒業論文のテーマも広い範囲におよんでいる。必修科目、演習、特殊講義をつうじて、系統的で体系的な教育に力をいれている。  卒業後の進路は、学部学生の約3分の1は新聞、放送、出版などマスコミ関係に、約3分の1はその他の民間企業に就職し、残りは公務員になるか、あるいは社会学その他の大学院に進学している。大学院修士課程入学者は外国人留学生を含めて10名前後である。修士課程入学者はこれまでほとんどが博士課程に進学しているが、今後は研究所研究員や国際関係機関職員などの分野に就職していくものも増えていくと思われる。院生総数は60名ほどであり、研究テーマもきわめて多様である。部局化とともに博士号取得のための指導にも力をいれており、論文博士に加えて、課程博士が多く誕生している。  研究室全体でかかわっている活動としては日本社会学会の活動がある。教員全員と多数の大学院生が会員として毎年大会などで活躍しており、機関誌『社会学評論』の発行に大きく貢献してきている。このほか、各種の社会学関連の学会や研究会の運営や活動に教員や大学院生がそれぞれ深くかかわってきている。また、大学院生が中心になって、若手社会学者向けの雑誌『ソシオロゴス』を毎年編集・発行している。  本研究室にも留学生は多い。もっとも多いのは韓国からの留学生であり、研究生として1~2年過したあと大学院にはいり、社会学の博士号をとって本国に戻って活躍している人がすでに数名でてきている。ついで多いのは中国からの留学生である。このほか、他のアジア諸国や欧米からの留学生もめだって増えてきている。
2.構成員・専門分野
 (1) 専任教員
  盛山和夫
    専門分野 階層論
    在職期間 1985年4月~現在

上野千鶴子
    専門分野 性・世代・家族の社会学
    在職期間 1993年4月~現在

   松本三和夫
     専門分野 科学社会学
     在職期間 1996年4月~現在

   武川正吾
     専門分野 社会政策
     在職期間 1993年4月~現在

   佐藤健二
     専門分野 歴史社会学
     在職期間 1994年10月~現在

   白波瀬佐和子
     専門分野 人口の社会学
     在職期間 2006年4月~現在

  赤川学
     専門分野 社会問題の社会学
     在職期間 2006年4月~現在

 (2) 助手・助教
  宮本 直美
   在職期間 2005年4月~2007年3月
   研究領域 音楽社会学・歴史社会学
   主要業績 「教養の歴史社会学」2003年博士論文、『教養の歴史社会学』2005年、岩波書店
   教育実績  2004年度~2007年3月 法政大学・中央大学・横浜市立大学非常勤講師
  冨江直子
   在職期間 2007年4月~現在
   研究領域 福祉社会学・歴史社会学
   主要業績 『救貧のなかの日本近代-生存の義務-』2007年、ミネルヴァ書房
   教育実績  2005年度~現在 流通経済大学非常勤講師
 (3) 外国人研究員
  2006年度 ヨウ ダン
       サハ サビヤサチ
       堀口 典子
  2007年度  李 蓮花


3.卒業論文題目等
 (1) 卒業論文題目
2006年度
   日本の少子化とその対策について
   地方公共交通の再生に向けて ―富山ライトレールの開業を事例に―
   アーキテクチャから見たオンライン空間
   現代における我々の売買春にまつわるネガイメージは歴史的にどのように成立したか
   社会保障の拡大と家族の変容
   報道写真の文法とドキュメンタリーの精神
   地球温暖化問題をめぐる言説についての社会学的考察
   社会の情報化と組み上げられる日常生活 ―監視という視点からの考察―
   現代医療技術における生命 ―死の医療から生の医療へ―
   ライフスタイルと家族を考える ―住居空間の変化から―
   ドーピング問題 ―アンチ・ドーピングのための組織づくり―
   医療における自己決定権とその問題の検討
   自閉症の社会史 ―戦後日本社会を問い直す―
   保育園における組織運営とジェンダー構築 ―役割理論で見る組織と女性―
   転職行動の研究~社会構造と労働意識の変化~
   テレビドラマから見た時代の欲望 ~「HERO」分析試論~
   エリート視される「帰国子女」―帰国子女のイメージと実態―
   最小関係の社会学 ―二項対立をこえて―
   「最近の若いもんは……」の社会学 ―現代若者論の誤謬―
   日本と韓国の外国人政策の比較
   大都市近郊型集合住宅における住民自治組織の機能と構造
   郊外に関する一考察
   農村における社会関係の変化と現在
   New Public Management の現状と課題 ―地域行政における新公共経営の明暗―
   郊外の再検討 ―理念、幻想、現実を統べる試みとして―
   「ロック・フェスティバル」の社会学 ~新しい若者文化の創造~
   腐女子のクローゼット ―やさしい仲間のつくり方―
   私鉄の地域貢献
   「文化」という語の理解と文化行政についての論考
   産業としての在日米軍基地
   性役割規範の解体と再生産 ~「モテ」戦略から考える~
   コスプレイヤーの意識に関する社会学的研究 ~人はいかにしてオタクとなるのか~
   格差論争の構築 ―「格差社会」論は新聞メディアでどのように構築されていったか―
   社会的共通資本としての交通システム ~東京圏を題材にして~
   社会的装置としての“ウエディング” ―婚姻儀礼は私たちに何をもたらすのか―
   2007年問題を検証する ―高齢者低所得者層と中高年就業事業の関係による団塊世代のアパルトヘイト―
   美容整形はなぜバッシングされるのか ―が意見をめぐる、終わらない「生きにくさ」―
   認知症高齢者の会話分析
   中国語教育にあらわれる対中認識
   歴史的環境と都市再生 ―「日本橋再生」を事例として―
   福知山線脱線事故における新聞報道の分析
   路上ミュージシャン達の新舞台
   日本型競馬の形成と解体 ~参加主体に関する歴史的考察を中心にして~
   「地域開発」の視点から見た巨大サッカースタジアム―日韓ワールドカップ以前/以後の埼玉スタジアム2002―
   企業の採用行動の変化からみる若年労働市場の変容
   「ツンデレ」の社会学
   大規模市町村合併における住民参加
   人はなぜショッピングセンターに行くのか
   首都圏における育児サポートサービスのこれから -母親たちの自己実現に向けて-
   システム・エンジニアの就職活動 ―“働く”を決める―
   再開発の研究 ~世田谷下北沢の事例
   社会運動組織の商業化 ―東大生協をひとつのケースとして―
   山梨県甲府市の地域コミュニティの伝統と現状
   言語と社会の関係を探る ―少子化言説の語られ方を題材として―
   恋愛の構築 ―語りの分析―

2007年度
   都市空間についての社会学的考察
   社会的養育における里親制度の役割と今後の展望
   医療過誤訴訟のおける法的判断の構造
   処女の価値 ―戦後日本における処女言説空間の変容―
   「母」の脱構築 ~「母」は「個人化」しているのか?~
   BSEのリスク評価過程における科学と政治の関わり
   セコムする社会 ―"安全"を求める社会の実態―
   持続可能性の社会の構築に向けた環境ガバナンス
   同人誌の社会学 ~コミックマーケットから見る同人誌市場の成立~
   女性のジーンズ着用にみえるステレオタイプイメージの変容 ―70~90年代の女性ファッション誌を題材に―
   「安楽死」論争 ―その構図と変遷―
   男女別学校におけるジェンダー・アイデンティティ
   「炎上」の社会学
   作り出される「善意」―献血の過去・現在・未来―
   社会保障システムの構造転換 ―雇用・労働・保障をめぐって―
   差別表現規制 ~表現/糾弾/規制の検証~
   非営利組織におけるボランティア
   日本人の死生観 ―多様化する死の時代と迎えて―
   なぜ人はつい、カフェに行ってしまうのか―都市における日本型サードプレイスの機能と現代人の孤独に関する考察―
   専門家集団としての医師と医療事故
   科学と社会からみた環境問題 ―諫早湾干拓事業を事例として―
   中学受験とその地域差に関する考察 ―「12の春」の選択に寄与するもの―
   東大女子のライフヒストリー ―18人の東京大学物語―
   スピリチュアルブームの背景 ―その人気の理由を社会学的に検証する―
   活字離れの社会史
   社会学原理論
   社会学的リスク論の再構成とBSE問題の理論的分析
   NGO発展論 ―コミュニティ概念を通じての考察と展望
   「動物園」の社会的機能の再検討 ~動物園の来園者 双方の視点から~
   精神医療の現実とその諸問題についての論考
   家族は子供の教育にどう関わるのか? ~社会関係資本による南米日系人のコミュニティ分析~
   ジャズイメージはいかに形成されるか ―ロックとの比較から―
   仕事と家庭の両立の可能性
   『パッチギ』化する日本社会 ―婚姻的同化から考える「在日」問題―
   戦争の記憶と戦争観
   戦争責任論の戦後史と今日的課題
   少子化の地域格差 ~公的結婚支援サービスの切り口から~
   健康増進社会 ―健康獲得拠点としてのフィットネスクラブ―
   グローバル化するフラ ―ハワイのフラ変容と日本のフラ受容―
   東京の再開発と都心回帰現象
   広がる地域間格差
   マンガと結びつく場の考察
   音楽著作権の社会史 近代日本における「音楽」「法」「社会」
   高齢者の食を取り巻く現状
   吹奏楽のオーケストラコンプレックスに関する一考察 ―日本の吹奏楽をめぐる言説と現実―
   若者の現実とイメージ ―働き方に注目して―
   介護サービス提供側から見た外国人介護 ―労働者の受け入れ―
   多民族社会におけるアイデンティティ クライシスについて ~マレーシアを事例研究として~
   武力紛争と非国家主体 ―現代国際社会における自衛権の「動揺」―

 (2) 修士論文執筆者・題目
2006年度
    近藤聡子 「脱施設化」運動とその後-東京都日野市のNPO法人「やまぼうし」を事例として-
    <指導教員>武川正吾
    斉藤史郎 社会の想像力-日本社会学における「家」理論の形成と展開-
    <指導教員>盛山和夫
    佐野敦子 移民労働者の組織化と主体形成-香港におけるフィリピン人家事労働者の事例-
    <指導教員>武川正吾
    福井康貴 就職空間の近代―大卒就職の歴史社会学―
    <指導教員>盛山和夫
    小山裕  ニクラス・ルーマン「機能分化」論の考察
    <指導教員>盛山和夫
    佐貫僚  現代日本社会における多文化主義の可能性
    <指導教員>盛山和夫
    福岡愛子 文化大革命の記憶と忘却
    <指導教員>上野千鶴子
    張善敬  国連基準からみた韓国少年刑務所の福祉状態について
    <指導教員>武川正吾

2007年度
    田中良一 結核の政治学-「国民病」から見た戦時期日本の社会編成-
    <指導教員>武川正吾
    鏡味克史 海外における中国民主運動の展開 ―雑誌「北京之春」を中心に―
    <指導教員>上野千鶴子
    中西直明 農業への新規参入と生産者サークルの生成-職業としての農業の社会的意義-
    <指導教員>佐藤健二
    姫野宏輔 小規模自治体の自立と活性化―福島県矢祭町を題材に-
    <指導教員>盛山和夫
    金妮   現代中国工会の擁護機能について
    <指導教員>武川正吾
    齋藤圭介 日本の男性学における生殖論の臨界- フェミニズム以降の男性の権利と義務の再構成を通して
    <指導教員>上野千鶴子
    高見具宏 労働時間における「分布の分散化」とその下での長時間労働者像-労働時間短縮政策後の変化をさぐる-
    <指導教員>盛山和夫
    見田朱子 「社会指標」の研究における実証・実践・理論の鼎立-幸福の数量化という冒険-
    <指導教員>佐藤健二
    山形孝将 監視のまなざし/監視へのまなざし
    <指導教員>盛山和夫
    朴正培  日本の年金改革政治-1985年以降の改革過程分析-
    <指導教員>武川正吾
    朴麗華  中国少数民族人口政策の意図と効果
    <指導教員>上野千鶴子

 (3) 博士論文(甲)題目
2006年度
    飯島祐介 ハーバーマス〈市民社会〉論の構造
    <主査>盛山和夫<副査>似田貝香門・松本三和夫・武川正吾・森田数実
    金成垣  福祉国家形成の韓国的経験-後発型福祉国家化論の可能性-
    <主査>武川正吾<副査>松本三和夫・佐藤健二・服部民夫・田多英範
    瀧川裕貴 現代リベラリズムの理論構図と社会学的規範理論の展開
    <主査>盛山和夫<副査>松本三和夫・武川正吾・宇佐美誠・赤川学
    常松淳  法的責任の社会学-日本における不法行為責任論の構造-
    <主査>盛山和夫・似田貝香門・松本三和夫・太田勝造・吉野耕作

2007年度
    李永晶  現代中国における社会認識の生成
    <主査>佐藤健二<副査>松本三和夫・武川正吾・赤川学・岸本美緒


 (4) 博士論文(乙)題目
2006年度
    伊藤智樹 セルフヘルプ・グループにおける自己物語構成-「回復の物語」によらない生の創出-
    <主査>盛山和夫<副査>似田貝香門・上野千鶴子・船津衛・野口裕二
    舩橋惠子 育児のジェンダー・ポリティクス
    <主査>上野千鶴子<副査>似田貝香門・武川正吾・渡辺秀樹・矢澤澄子

2007年度
    尾中文哉 「進学」の比較社会学-三つのタイ農村における「地域文化」と「進学」-
    <主査>佐藤健二<副査>似田貝香門・盛山和夫・吉野耕作・中村雄祐




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