23 現代文芸論

  1.研究室活動の概要
  (1)研究分野の概要
   まず、「現代文芸論」がどのような専修課程・研究室であるのかを、紹介しておこう。
   現代文芸論専修課程(略称「現文」)は、2007年度に発足した新しい研究室である。
   といっても、無から生じたわけではなく、2006年度まで存在した「西洋近代語近代文学専修課程」(略称「西近」)を発展的に引き継いだ研究室である。
   「西近」はひとつの言語・国の枠内にとどまることなく、西洋の近代文学・語学を広く学ぶことを奨励する――というか義務づけた――専修課程だった。その精神は、「現文」においても変わらない。
   では何が変わったかというと、

   <1>これまでは、ほかの専修課程(近年はもっぱらスラヴ語スラヴ文学専修課程)の教員が「かけもち」で運営してきたが、「現文」になって、専任の教員2名と助教が配属された。
   <2>それに伴い、専用の共同研究室を確保し、事務補佐員を採用して事務・運営体制を整え、学生たちは西近時代に余儀なくされていた「借家生活」に終止符を打った。
   <3>学部課程のみならず、大学院課程が新たに設けられ、学部での研究をさらに深めることが可能になった。

   西洋近代の文学・語学を広く学ぶ、という姿勢に加えて、いわば「逆に」留学生が西洋のバックグラウンドから日本語・日本文学を研究することも奨励し、2007年からまさにそのような目的を持つ留学生が大学院に入学している。
   専任教員一人ひとりが、それぞれ専門とする地域の文学の研究・教育に従事していることはいうまでもないが、と同時に、「世界文学」「翻訳」「批評」「近代日本文学」などをキーワードに、「現代文芸論的」なアプローチの研究教育に携わり、教員同士の意見交流も活発に行なっている。
   非常勤講師による授業も、ラテンアメリカ文学をはじめ、エスペラント語、表象文化、幻想文学、ユダヤ文学、SF、ビート文学など、現代文芸論の理念にそった多彩な内容を提供し、当専修課程以外の学生も多数受講している。

  (2)大学院の専攻・コースとしての活動
   「西近」を発展的に引き継いだ学部課程に対し、大学院は2007年に一からスタートしたため、教育・研究の成果については今後の進展を待つことになるが、2007年度より、博士課程に2名、修士課程に6名の学生が入学し、多彩なバックグラウンドを持つ学生同士が刺激を与えあって研究に勤しんでいる。

  (3)研究室としての活動    国内外から研究者・文学者を招いてシンポジウムなどを積極的に行ない、多くの参加者を得ている。主なものを挙げれば、ロイヤル・タイラー教授講演『源氏物語とThe Tale of Genji~英語圏での受容について』(2007/10/5)、シンポジウム『世界解釈としての文学』(パネリスト池澤夏樹他、2007/11/20)、トム・マシュラー氏講演会『世界文学はこうしてつくられる~イギリスにおける文芸出版文化の現場から』(2008/3/20)。

  (4)国際交流の状況
   下記の通り外国人研究員を受け入れているほかにも、外国人研究者が随時研究室を訪れるごとに、公式・非公式の研究会や特別授業などを組織し、活発に交流を行なっている。


2.構成員・専門分野
   (1)専任教員
    沼野充義(ロシア東欧文学、世界文学へのアプローチ 2007より専任)
    柴田元幸(アメリカ文学、翻訳論 2007より専任)

   (2)2006~2007年度の助教の活動
    毛利公美
     在職期間 2007年4月~
     研究領域 ロシア文学

     履歴
     1992年4月 東京外国語大学外国語学部ロシヤ語学科卒業
     1995年3月 東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了(露語露文学)
     1995年4月 同 博士後期課程進学
     1997年3月 ロシア国立モスクワ大学研究生(文部省アジア諸国等派遣留学生,~1999年2月)
     2002年3月 東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程単位取得退学 
     2002年4月 北海道大学スラブ研究センター講師(研究機関研究員)
     2005年4月 同上 助手
     2005年10月 東京大学 博士(文学)学位取得
     2007年4月 東京大学大学院人文社会系研究科助教

    2006~2007年度の業績 
   (論文)
    「光学機器としての語り手―ナボコフ『賜物』における映像と語り」(『ロシア語ロシア文学研究』38号,2006年9月,42-48頁
   (翻訳)
    ボリス・アクーニン著、沼野恭子・毛利公美共訳『アキレス将軍暗殺事件(ファンドーリンの捜査ファイル)』(岩波書店、2007年3月)
    ニコライ著、中村健之介監修、毛利公美・斉藤毅・坂内知子訳『宣教師ニコライの全日記 9 1909年~1911年』(教文館、2007年7月、7-109頁)

   (3)2006~2007年度の外国人教師の活動
    シオドア・W・グーセン(Theodore W. Goossen: カナダ、ヨーク大学教授)2007年度 客員教授
    授業としては「Canadian Literature」「Workshop in Japanese to English Translation」(以上学部授業)「Song Lyrics from the 1960s」「Japanese Literature in the West」(以上学部・院共通)を担当し、また学生の英文論文執筆の指導などにおいても大いに貢献した。

   2006~2007年度の業績
    “Hearn and the Muse” in Sukehiro HIRAKAWA, ed., Lafcadio Hearn in International Perspectives (Global Oriental, May 31, 2007), pp. 178-185.

   (4)2006~2007年度に受け入れた内地研究員・外国人研究員
    タチヤーナ・N.スニトコ(ロストフ・ナ・ドヌー経済大学教授) 2007年10月~
    藤井光(学術振興会特別研究員) 2007年度
    トリスタン・コノリー(ウォータルー大学セント・ジェロームズ校准教授) 2007年5月2日~5月20日


3.卒業論文題目
    (1)2006、2007年度卒業論文題目一覧
   2006年度(西洋近代語近代文学)
    『赤毛のアン』の翻訳論
    リルケ『マルテの手記』と<不気味なもの>
    『フランケンシュタイン』における科学

   2007年度(現代文芸論)
    対話~イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』試論~
    W. B. イェイツと能 ―クフーリン劇をめぐって―
    『ゲーテとトルストイ』と『トルストイとドストエフスキー』―トーマス・マンの講演にメレシコフスキーが与えた影響―
    戦争文学における機械の描写

    (2) 2006、2007年度修士論文
    (3) 2006、2007年度博士論文
     いずれも該当なし。




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