10  日本史学

1.研究室活動の概要
 本専修課程は、1889年、帝国大学文科大学に国史科がおかれて以来の長い歴史をもつ。文献史料を中心とする実証的学風を伝統としてきたが、近来では、これを基礎としながらも、歴史学の新しい動向を積極的にうけとめ、とりあつかう史料の範囲を意識的に拡張し、隣接諸分野―考古学・民俗学・経済学・法制史・政治学・社会学・美術史・国文学・建築史など―の成果を旺盛にとりいれて、多彩な研究方法の開拓を試みている。1994年に名称を「国史学専修課程」から現行のものに改めた。
 現在の教員数は、教授4名、准教授3名、助教1名で、古代・中世・近世・近現代のそれぞれに、原則として2名ずつの教員(助教を除く)を配置している。それに加え、多彩な非常勤講師の方々のご協力をえて、日本史の諸時代・諸分野を広くカバーし、教育・研究にとりくんでいる。また、大学院人文社会系研究科日本文化研究専攻・日本史コースにおいては、史料編纂所をはじめ、大学院総合文化研究科、経済学研究科、法学政治学研究科の教員のご協力をえて、多様なカリキュラムを編成しており、多分野交流演習等にも参加している。なお、急増する研究室事務を処理するため、副手2名を雇用している。
 教養学部からの進学生は毎年25名内外で、卒業時には約3分の2が就職し、約3分の1が大学院に進学する。学生や大学院生が専攻する時代・分野は、各自の関心に応じて自由に選ぶことができる。
 本研究室は、独自に『東京大学日本史学研究叢書』(1994年創刊。6冊まで刊行)と『東京大学日本史学研究室紀要』(1996年創刊。現在12号まで刊行)を企画・出版している。『研究叢書』は、課程博士論文の成果をひろく公表するものであり、『研究室紀要』は、おもに研究室の教員・大学院生による調査・研究成果の発表の場となっている。
 本研究室が、歴史文化学科の他の研究室とともに担っている学会として、史学会がある。教員の何人かは、理事として学会運営に参加し、編集委員として『史学雑誌』の編集に携わっている。また、毎年11月の史学会大会において、日本史関係のシンポジウムや各時代別部会を組織するなどの活動を行っている。
 近年、日本史学の専攻を希望する海外からの留学生が増加している。2007年度においては、韓国・中国を中心に、大学院に8名、研究生に6名が在籍していた。
 最後に、研究室におけるハラスメントを許さない体制づくりに、意識的にとりくんでいることを強調しておきたい。

2.構成員・専門分野
 (1) 専任教員
  藤田 覚 教授      日本近世史
  吉田伸之 教授      日本近世史
  村井章介 教授      日本中世史
  佐藤 信 教授      日本古代史
  野島(加藤)陽子 准教授 近代日本政治史
  大津 透 准教授     日本古代史
  鈴木 淳 准教授     日本近代史

 (2) 助教の活動
  佐藤 全敏~2007年9月まで在職
   研究領域  日本古代中世史
   主要業績  『平安時代の天皇と官僚制』東京大学出版会 2008年2月

 (3) 内地研究員・外国人研究員
 (1) 人文社会系研究科研究員
  2006年度  榎本 渉
  2007年度  戸森麻衣子

 (2) 私学研修員
  2007年度  田浦雅徳 皇學館大学准教授

3.卒業論文等題目
 (1) 卒業論文題目
  2006年度
       江戸後期における越中新川郡の職業構造
       明治後期の鉄道請負業
       城柵と律令国家の東北支配
       明治前期衛生行政における政策立案過程
       近世三河における川除普請と地域
       後藤新平と大調査機関
       昭和12年揮発油税と道路財源
       明治前期の廃娼運動
       蝦夷・隼人と律令国家
       律令国家の礼制と音楽
       中近世移行期における中央と地方の文化的連関
       天正年間における取次機能について
       明治末期の神社整理
       中近世移行期毛利氏における家臣団編成
       戦後食料危機下における日本の供出政策
       伊東巳代治の国際認識
       「紅花一件」に見る幕末の商品流通
       明治初年の外交体制

  2007年度
       中世後期における種子島氏とその近隣勢力の交渉
       加賀一向一揆と郡について
       鎌倉時代における弓射儀礼の展開
       田沼時代の貨幣政策について―五匁銀・南鐐二朱銀を中心に―
       戦前期日本情報機関の現状認識~『情報局関係極秘資料』にみる~
       近世房総の漁村における争論について
       古代の地方官人としての郡司
       文治五年奥州合戦の意義
       遊女の聖性は存在したか
       陸軍による海戦情報入手と意思決定との考察
       明治期実業補習学校―愛知県を例として―
       大正期における職業紹介所
       明治前期における商業教育受容の一側面―商法講習所をめぐる議論を中心に―
       近世南信山間部における村落構造
       追憶と忘却の関東大震災―1920年代を中心として―
       石田軍記について
       戦国期武蔵国吉良氏の研究
       日本におけるサーカス 戦中・戦後期を中心に―児童労働を軸とした考察―
       近世後期の甲府における芸能をめぐって
       筒井政憲の思想―対外政策を中心として―
       近世浦賀の流通と「廻船宿」~幕末期を中心に
       明治二〇年代の「北地粛清論」―第一次松方内閣期を中心に―
       財閥の石炭業進出
       信仰からみる古代村落社会
       明治期における富士登山の変容
       一九三〇年代における対外文化事業と外務省~日中戦争への対応と「文化外交」という名の模索~


 (2) 修士論文題目
  2006年度
       岡林彩子  大徳寺の運営組織とその展開
      <指導教員>村井章介
       中野弘喜  初期議会期の軍と国家
      <指導教員>野島陽子
       井内智子  農村生活改善と戦時下のファッション
      <指導教員>鈴木淳
       小林延人  明治初期の貨幣経済―藩札回収と地域経済の再編―
      <指導教員>鈴木淳
       佐藤雄基  中世初期における文書の伝達と書札様文書
      <指導教員>村井章介
       佐藤雄介  近世後期の朝廷財政と江戸幕府
      <指導教員>藤田覺
       高橋瑞佳  皇位継承にみる古代天皇制の研究
      <指導教員>佐藤信
       三ツ松誠  幕末国学の歴史的位相 ―参澤明を中心に―
      <指導教員>吉田伸之
       安原徹也  明治期における中等教育観の変遷と地域社会―諏訪青年会と諏訪実科中学校の分析を中心に―
      <指導教員>鈴木淳
       吉松大志  律令官司財政の研究
      <指導教員>佐藤信

  2007年度
       鈴木健史  中世前期の都鄙間交通とその施設
      <指導教員>村井章介
       宮川麻紀  日本古代の市場統制と交易
      <指導教員>佐藤信
       高銀美   東アジア諸国の対外交渉における地方機関の役割 ―11~13世紀を中心に―
      <指導教員>村井章介
       彭浩    一八世紀前半の日中関係史
      <指導教員>藤田覺

 (3) 博士論文題目
  2006年度(甲)
       新井重行   日本古代の力役編成と地方社会の研究
      <主査>佐藤信<副査>大津透・多田一臣・岸本美緒・石上英一
       有富純也   古代国家支配理念の研究
      <主査>佐藤信<副査>大津透・川原秀城・末木文美士・山口英男
       伊川健二   大航海時代の「三国」世界
      <主査>村井章介<副査>五味文彦・藤田覚・六反田豊・浅見雅一
       細川武稔   中世の寺院と室町幕府
      <主査>村井章介<副査>五味文彦・藤田覚・榎原雅治・山家浩樹
       三枝暁子   中世京都の寺社勢力と室町幕府
      <主査>村井章介<副査>五味文彦・吉田伸之・近藤成一・久留島典子
      2006年度(乙)
       佐藤全敏   平安時代の天皇と官僚制
      <主査>村井章介<副査>佐藤信・大津透・加藤友康・五味文彦
       杉森玲子   近世日本の商人と都市社会
      <主査>吉田伸之<副査>藤田覚・横山伊徳・桜井英治・伊藤裕久
      2007年度(甲)
       稲田奈津子  日本古代における喪葬儀礼と礼制の研究
      <主査>大津透<副査>佐藤信・小島毅・橋場弦・石上英一
       李炯植    朝鮮総督府官僚の統治構想
      <主査>野島(加藤)陽子<副査>藤田覚・吉田伸之・鈴木淳・千葉功
       大塚紀弘   中世僧侶集団の成立史的研究―律家および三鈷寺流を中心に―
      <主査>村井章介<副査>末木文美士・小島毅・山家浩樹・五味文彦
       川越美穂   明治初期における天皇親裁の制度的形成―天皇と太政官内閣の関係性を中心に―
      <主査>鈴木淳<副査>野島陽子・藤田覚・五百旗頭薫・坂本一登
       戸森麻衣子  近世幕領支配の組織と構造
      <主査>吉田伸之<副査>藤田覚・松井洋子・久留島浩・志村洋
       永原健彦   近世の内水面舟運と社会構造
      <主査>吉田伸之<副査>藤田覚・斎藤善之・保谷徹・後藤雅知
      2007年度(乙)
       井上和人   古代都城制条里制の実証的研究
      <主査>佐藤信<副査>今村啓爾・早乙女雅博・藤井恵介・山口英男
       菊地大樹   中世仏教の原形と展開
      <主査>村井章介<副査>末木文美士・大津透・五味文彦・永村眞
       西坂靖    三井越後屋奉公人の研究
      <主査>吉田伸之<副査>藤田覚・塚田孝・粕谷誠・杉森哲也




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