09a 日本語日本文学(国語学)

1.研究室活動の概要
 東京大学における本格的な日本語研究は、明治中期、帝国大学文科大学に上田万年が「国語研究室」を開設したのに始まったと言ってよい。1897年に設けられた「国語研究室」は、わが国における研究室制度の始まりと言われ、わが研究室は1997年9月に開設百周年をむかえたのであるが、開設当初は、単に大学内の一研究室という立場にとどまらず、広く日本の言葉の実情を調査し、そのあるべき未来像を研究する国家の研究機関という性格を帯びていた。日本の国語を研究する国家的な機関という性格から「国語研究室」と称したものであって、学問名、専修課程名に対応させて言うなら「国語学研究室」「日本語学研究室」と言ってもよいところを、現在でもあえて「国語研究室」と称しているのは、設立当初のこの事情に由るものである。
 教育組織としても、明治初期の和漢文学科、和文学科以来、国文学科、国語国文学専修課程と名前を変えて続いてきたものが、1975年に国語学専修課程と国文学専修課程に分かれた。その後、わが国語研究室、国語学専修課程は、従来の国語学国文学第一講座(国語学担当)のほかに、日本語を軸として日本の文化を考える日本語文化講座、日本語による情報伝達のメカニズムを研究する日本語解析講座を加えて、日本語の構造と歴史を多面的、総合的に研究、教育する体制を整えた。
 1995年の大学院化への過渡的措置として1994年に文学部の大講座化という組織替えがあり、その際、国文学専修課程とともに「日本語日本文学専修課程」という共通看板を掲げることになったが、それぞれの研究目的、方法の差によって、また学生に課すべき訓練内容の差によって、その後も「国語学」として独立した教育、研究室体制を維持している。なお、大学院の教育組織としては、従来から国文学研究室とともに「日本語日本文学専門分野」を形成している。
 国語学の研究分野としては、日本語の言語体系を構成する各領域に対応して、文法論・意味論・語彙論・音韻論・文字論などがあり、言語の広い意味での使用をめぐって、談話分析(文章論)・社会言語学(言語生活論)などがある。また、これらの諸分野の一部または全体を、時間的・空間的な展望において扱う国語史学、方言学がある。また、これらの成果の上に立って、日本語情報処理のための理論的研究や外国人への日本語教育という観点からの研究などもある。
 研究組織としては、国文学研究室とともに東京大学国語国文学会を運営し、学会誌『国語と国文学』を広く全国の研究者にも開放して刊行している。国語研究室独自の活動としては『日本語学論集』を刊行し、主として大学院生等の論文を公表している。
 また、全国の国語学研究者の学術情報の集積伝達の場として、当研究室には全国のほとんどの研究雑誌のバックナンバーがそろっており、多数の古写本、古刊本とともに、希望者の閲覧に供している。
 国際交流の状況としては、現在、大学院生3名、大学院研究生1名、計4名の外国人留学生が本専修課程に在籍しており、日本人大学院生と活発に交流を行っている。また、海外の日本語研究者が2名、文学部外国人研究員として本研究室に在籍し、研究に従事している。

2.構成員・専門分野
 (1) 専任教員
      鈴木 泰 教授 日本語文法史 2003年4月~現在
      尾上 圭介 教授 日本語文法論 1989年4月~現在
      月本 雅幸 教授 日本語史 1992年4月~現在
      井島 正博 准教授 日本語文法論 1998年4月~現在
      肥爪 周二 准教授 日本語史 2003年4月~現在

 (2) 2006~2007年度の助教の活動
      柳原 恵津子
      在職期間  2005年4月~現在
      研究領域  日本語史
      主要業績
        『仁和寺御経蔵の典籍文書』2002.4(部分執筆)
        「『後二条師通記』に見られる文体の形成過程」『国語と国文学』2002.9
        『御堂関白記全註釈 寛弘三年』思文閣出版 2005.2(部分執筆)
        「自筆本『御堂関白記』における「之」字の用法について」『日本語学論集』創刊号 東京大学大学院人文社会系研究科国語研究室 2005.3
        「(調査報告)『後二条師通記』冒頭部の使用語彙-本記と別記の比較という観点から-」『日本語学論集』第3号 東京大学大学院人文社会系研究科国語研究室 2007.3
        『御堂関白記全註釈 寛弘五年』思文閣出版 2007.12(部分執筆)
      学外活動
        青山学院大学非常勤講師(2007年度~)
        日本語学会庶務委員(2005.6~現在)
    
     (3) 2006~2007年度に受け入れた内地研究員・外国人研究員
     なし

3.卒業論文等題目
 (1) 卒業論文題目一覧
 2006年度
      ・「幕末明治初期の翻訳兵学書の語彙について」
      ・「1965年と2005年の求人広告のキャッチコピーの語彙比較」
      ・「共通語終助詞の音調と意味-終助詞「ね」と「よ」を中心に」
      ・「連語における後置詞「~について」「~に対して」の用法」
      ・「日英語対照による、感情・感覚・評価表現の研究」

     2007年度
      ・「明治期円朝作品にみる二つの謙譲語システムの比較」
      ・「とりたて副詞における接続詞的用法について」
      ・「「XをYにする」という構文をめぐって」
      ・「漫才における「ズレ構造」の類型化と仕組み」
      ・「ネットワーク上に見る非標準的表記形式について」
      ・「壁塗り代換における動詞の条件と周辺的諸相」
      ・「日本語の終助詞とシンガポール口語体英語の助辞との対照研究」

 (2) 修士論文題目一覧
 2006年度
      ・李忠均「中世日本語における存在詞の補助動詞的用法」
     <指導教員>鈴木泰
      ・テュシェ シモン「思考動詞を用いた文末表現」
     <指導教員>井島正博
      ・藤本灯「色葉字類抄の研究―所収語彙の当時における使用状況を中心に―」
     <指導教員>月本雅幸

 2007年度
      ・平井吾門「中古語における対格表現―宇津保物語のヲ格とゼロ格をめぐって―」
     <指導教員>鈴木泰


 (3) 博士論文題目一覧
 2006年度
      ・常盤智子「英学会話書による近代語研究」
     <主査>鈴木泰<副査>上野善道・長島弘明・月本雅幸・肥爪周二
 2006年度
      なし




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