対人関係におけるネガティブ・フィードバック-関係促進効果と関係阻害効果の比較、および、相互作用的視点による検討-

繁桝 江里

本論文では、「相手の態度や行動、考え方に対して否定的な評価を示す言語コミュニケーション」である「ネガティブ・フィードバック」(以後、NFと略記)が、受け手や受け手との関係に与える効果について、関連する多様な要因を可能な限り体系的に検討し、効果を予測する統括的なモデルを実証することを目的とした。
緒論においては、NFに関連する批判や不平に関する既存の研究では、対人的にポジティブな効果をもたらすという視点が欠けていることを指摘し、NFのアドバイス的な特徴に注目したポジティブな効果について議論を進めた。さらに、一般的な信念としてはポジティブであるオープンネスは、現実にはアンビバレントな効果を持つことを理論的実証的知見から指摘した。
上記の議論に基づく実証研究は3部構成を取る。第1部では、NFの対人的効果が両価的であることを解明するために、日本人成人同士の実在の対人関係を対象にした郵送調査による研究を行った。研究1では、NFを認知することで、受け手がその関係を自己成長化関係として評価するという関係促進効果が見られた。一方、自己安定化関係としての評価は、NF認知によって低まるという関係阻害効果を予測したが、むしろ、正の連関が得られた。なお、関係満足度との有意な連関は見られなかった。そこで研究2では、NFが受け手のネガティブ感情を喚起するかどうかという要因に着目した。ネガティブ感情を喚起しないNFを認知する関係は満足度が最も高く、喚起するNFを認知する関係は満足度が最も低いことが示され、NFの両価的な効果を明確に見出した。研究3では、規定要因をより論理的に検討するために、NFの効果はNFが与えるフェイス脅威度の強弱に依存するとし、脅威度は、親密度、地位差、および、個々のNFの負荷度の3要因で規定されるという公式に基づく説明を試みた。親密・非親密関係の双方について尋ねる調査を行い、日常的なNFスタイルが受け手の関係満足度に与える効果を検討した結果、親密関係や対等な関係においては関係促進効果を持ち、受け手が目下の関係においては関係阻害効果を持つことが示された。研究4では、エピソードNFについて、フェイス脅威度を測定し、上記の規定要因の効果を確認した。さらに、フェイスのタイプによって規定要因が異なること、特に肯定的フェイスと自己志向的な自律的フェイスへの脅威が関係を悪化させることが示された。
第2部では、NFが送り手と受け手の2者の相互作用において成り立つことに注目し、現象をより適切に反映した理解を目指した。研究5では、送り手と受け手の双方から回答を得るダイアドデータを用い、NF認知は正確であるのか、どのような場合に正確なのかを検討した。地位差に関しては、目上のNFに対する認知が最も正確であり、目下のNFに対する認知は対等な場合よりは正確であった。関係継続期間については、期間が長いほど相手のNFを過小に認知していた。さらに、受け手自身のNFの投影については、安定的で強い効果が見られた。研究6では、1)受け手のNF認知の正確性やバイアスは、対人的効果にどのように影響するのか、2)送り手と受け手自身のNFのどちらに効果があるのか、3)送り手と受け手のNF傾向の組み合わせによってNFの対人的効果は異なるのか、の3点を研究課題とした。その結果、送り手のNF傾向が実際に低く、それを受け手が正確に認知する場合に、最も関係評価が低いことから、正確さ自体の効果が示唆された。また、送り手のNFを認知するほど、受け手は自分が成長できる関係だと思い、受け手自身がNFを行うほど、ありのままでいられる関係だと思うという結果から、2つの指標に対するNF効果のプロセスの違いが明確になった。最後に、自己成長化関係としての評価は、受け手が一方的にNFを行う場合には低まること、自己安定化関係としての評価は、送り手が一方的にNFを行う場合に低まることが示され、組み合わせの効果が確認された。
第3部では、応用的な視点から、在日留学生の適応と日本人ホストのNFの連関を検討した。ネガティブなコミュニケーションを抑制するという日本人の傾向が在日留学生の適応問題となるという知見から、指導教員と日本人学生からのNFの対人的効果を検討した。その結果、指導が主である指導教員のNFは関係満足度を高めるが、日本人学生のNFは関係満足度を高めないことが示された。次に、日本人ホストのNFが、留学生活への適応全体を促進する効果について検討した。指導教員からのNFが周囲日本人の排他性の認知を低めたが、日本人学生からのNFには効果がなく、日本人学生が日本人の代表として捉えられていないと解釈した。しかし、どちらのNFも、留学生活満足という総合的な指標を高め、在日留学生にとって重要な要因であることが主張できた。また、相互作用性に着目し、お互いのNFに対する認知に有意な相関がないこと、留学生のNF評価と日本人から見た留学生のNFには弱い相関があったが、日本人のNF評価と留学生から見た日本人のNFには相関がないことが示された。
総合考察として、本論文の貢献を3点にまとめた。第1に、NFの対人的効果として、自己成長化関係としての評価と自己安定化関係としての評価の2指標を検討したことの成果を示した。第2に、NFが関係満足度に与える効果の規定要因をフェイス脅威という概念に着目し整理した点を貢献とした。第3に、在日留学生の適応における研究によってNF研究の応用的価値を示した。最後に、本論文の課題として、NFの対人的効果のプロセスを解明すること、NFのコンテクストの効果を検討することの2点について論考している。

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