本稿では、社会的相互作用過程におけるレイベリングというテーマを立て、レイベリング論とアイデンティティ論の交差する地点で、被レイベリング者のアイデンティティ管理の問題に主として照準した議論を展開する。
第1章「社会的相互作用過程におけるレイベリングの生成」で、社会的相互作用においてレイベリングが生成する過程を探究した上で、第2章「社会的レイベリングから自己レイベリングへ」・第3章「性暴力における犠牲者非難と被害者の自己レイベリング」では否定的人格評価を随伴するネガティブ・レイベリング、第4章「ポジティブ・レイベリング」では肯定的人格評価を随伴するポジティブ・レイベリングを扱い、レイベリング側から被レイベリング側への否定的/肯定的な定義の作用と、そうした作用が被レイベリング者に内在化され、自己レイベリング化していく過程に関して分析する。そして第5章「社会的相互作用過程における自己レイベリング」では、自己レイベリング過程を中心的テーマとする。被レイベリング者のアイデンティティ形成過程、及び被レイベリング者のアイデンティティ変容過程について探究し、後者の過程について、被レイベリング者がレイベリングに対抗的な価値変革志向の「力強い」抵抗を実践するという事例を取り上げる。
第6章から第8章までは、レイベリング側に対する直接的抗議や規範・価値変革志向の行動といった「力強い」抵抗とは異なる、被レイベリング者の「力弱い」ソフトな抵抗の日常的実践を取り上げる。第6章「解放的レイベリング」は、レイベリングを自ら引き受けることで、引き受けた否定性を媒介にして肯定的価値の獲得・肯定的アイデンティティ形成を行う内面的抵抗、第7章「被レイベリング者の受容的抵抗」は、逸脱カテゴリー受容の中に潜ませる内面的抵抗、そして第8章「被レイベリング者の同調的抵抗」は、逸脱カテゴリーを拒絶し、同調定義を他者から獲得する実践に潜ませる内面的抵抗を扱う。
第9章以降では、被レイベリング者の脱レイベリング実践を議論する。第9章「社会的相互作用過程における脱自己レイベリング」で、脱自己レイベリングをα型、β型に分節化して概念化し、第10章「阪神大震災における被災障害者のアイデンティティ管理と支援ボランティアの活動」で、脱α型自己レイベリングの相互作用の分析として、阪神大震災における被災障害者と支援ボランティアとの相互作用過程を取り上げる。続く補章「阪神大震災における被災障害者の<自立>とその支援」で、第10章の議論を補った上で、第11章「犯罪被害者のアイデンティティ管理とセルフ・ヘルプ・グループの活動」では、脱β型自己レイベリングの相互作用の事例を、犯罪被害者のセルフ・ヘルプ・グループの相互作用に求め、論じる。
終章では、残された課題と今後の展望について述べ、本稿全体のまとめとする。