文学部のひと

 

文学部とは、人が人について考える場所です。

ここでは、さまざまな人がさまざまな問題に取り組んでいます。

その多様性あふれる世界を、「文学部のひと」として、随時ご紹介します。

編集部が投げかけた質問はきわめてシンプル、

ひとつは「今、あなたは何に夢中ですか?」、

そして、もうひとつは「それを、学生にどのように伝えていますか?」。

 

設樂 博己教授(考古学研究室)

第1の答え

ただ今、『顔の考古学』という本を執筆中です。20数年前にある書店から依頼され、荷が重く困っていましたが、研究の蓄積の結果やっと筆をとり始めました。先日、駒場の授業で知っている考古学者をあげなさいというアンケートをとりましたが、その昔上映された映画の主人公「インディ・ジョーンズ」と書いた人が何人かいました。でも、実際の考古学者はムチで悪者から遺宝を奪い返す作業よりも、犯罪捜査で犯行現場の遺留品を丹念に回収したり、科捜研の女よろしくさまざまな自然科学的分析の力を借りて犯人を特定していくような作業をやっています。そういう意味では、これも古いテレビ映画ですが、刑事コロンボが理想の考古学者像といってよいでしょう。歴史的な出来事の動機や社会的な背景の解明、それは歴史研究、考古学研究にとって難題ですがとても魅力的な作業です。

『顔の考古学』では妖怪一つ目小僧のルーツを考古資料から探り、日本列島の先史・古代人が顔に入墨をしていたこととそれが消え去ってしまったことの意味を問い、縄文人はなぜ直径が10㎝以上に及ぶピアスをしていたのか(写真)解き明かすなど、さまざまな問いの解明に挑戦しようと思っています。そして、現代人にとっては一見奇妙に見える風習や儀礼行為が、じつは当時の社会の緻密な約束事にもとづいていたことを犯罪捜査のような作業によって論証するつもりです。

 

第2の答え

考古学は、様々な周辺科学の手助けを受けながら謎の解明に赴きます。土器の表面に残された凹みには、植物の種実のぬけ痕がしばしば見られます。そこに歯科医用のシリコンを注入して型取りし、それを電子顕微鏡で観察して種実の種を同定するレプリカ法という作業が現在学界で隆盛を極めています。

私も6年間科研費をいただき、レプリカ法によって稲作をはじめとした農耕の起源をさぐる研究を植物学者や分子生物学者とともにおこないました。学生諸氏とあちこちに資料採集に出かけ、地元の郷土料理を楽しみにしながらただひたすら写経のような作業を繰り返しました。さすがに東大生は優秀。苦行の果てには科研の報告書に立派な論文を書くまでに成長してくれたという、うれしい結果が待っていました。

 

設樂博己:
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