文学部のひと

 

文学部とは、人が人について考える場所です。

ここでは、さまざまな人がさまざまな問題と取り組んでいます。

毎月ひとりずつ、「文学部のひと」をご紹介します。

編集部が投げかけた質問はきわめてシンプル、

ひとつは「今、あなたは何に夢中ですか?」、

そして、もうひとつは「それを、学生にどのように伝えていますか?」。

 

榊原 哲也教授(哲学研究室)

第1の答え

これまで長年にわたって、「現象学」という現代哲学の一流派を創設したフッサールという哲学者の思想について、ドイツ、ベルギーに赴いて未公刊の遺稿をも閲覧しながら、とりわけその「方法」思想の成立と展開を、テクストに即して追跡する仕事をしてきました。しかし一昨年、その仕事に一区切りをつけることができ、現在は、現象学的哲学の歴史的・体系的研究を続けながらも、主な関心は、看護や介護などをはじめ、広い意味での「ケア」の営み一般を現象学の視点から解明する「ケアの現象学」に移りつつあります。

最初は、現象学を応用して「ケア」の営みを明らかにするつもりでいたのですが、研究を進めるうちに、「ケア」という事象そのもののほうから既存の現象学が見直されなければならなくなる側面も多々あることに気づき、「これは応用現象学ではなく、事象そのものに即した現象学そのものなのだ」ということを自覚しつつあります。

これまで私が主に行ってきたのは、フッサールという哲学者の思想研究でしたが、今後は「ケアの現象学」をさらに進めることによって、ケアという事象に即した私なりの哲学を展開できたら、と夢見ています。

 

第2の答え

看護学や福祉の領域の学外の研究者の方々と科研費の研究プロジェクト(「ケアの現象学の基礎と展開」)を進めたり、東大病院や近隣の病院の医師、看護師の方々と勉強会を行ったりと、目下、「ケアの現象学」に夢中ですが、学生さんたちに対しては、応用倫理教育プログラムの「応用倫理研究」という授業(毎年半期開講)で、その内容を伝えています。哲学専修課程の授業ではありませんので、「現象学」という哲学をケア論の視点から概説するところから始めますが、そのうえで看護や介護などにおけるケアの営みを「現象学」がどのように明らかにしうるのか、出来る限り具体的な事象に即しながら、講義していきます。「ケアの現象学」と題するこの授業は、毎年、文学部の学生さんだけでなく、教育学部や法学部、経済学部等の学生さんや、様々な領域の院生の方々が受講して下さり、さらに東大病院のお医者さんや看護師さんが聴講して下さることもあって、領域を超えた交流が生まれつつあると感じています。

 

主要著書: 『フッサール現象学の生成――方法の成立と展開』、東京大学出版会、2009年
  『哲学の歴史』第10巻、中央公論新社、2008年(共著)

過去に掲載した文学部のひとについてはこちらをご覧ください